果樹研究所

一押し旬の話題

2014年9月 8日

郷愁と食育

「果実日本 2014 Vol.69 6月号」(日本園芸農業協同組合連合会、略称:日園連)に、下記の拙文が掲載された。

 

郷愁と食育

忘れられない味 今でも、『あの「長十郎」の味が、忘れられない』という人と出会うことがある。

今の若い人は「長十郎」を知らないと思うが、私が子供の頃のニホンナシといえば「長十郎」と「二十世紀」だった。クセのある甘みがありゴリゴリの肉質の「長十郎」と、軟らかいけれどほのかな甘みの「二十世紀」。それが、私の心に残っている「長十郎」と「二十世紀」の印象だ。
果樹研究所では、「二十世紀」のような軟らかい果肉を持ち、かつ甘い品種の育成を目指して品種改良を行い、その結果「幸水」や「豊水」が生まれ、「長十郎」は市場から姿を消した。
また、カキでは、さくさくした果肉で多汁な「太秋」を果樹研究所で育成しているが、「太秋」を『あれはカキではない』と言う人もいる。確かに、昔食べたカキで、あのような肉質はなかった。

ここに共通しているのは、子供の時に食べた味が、その人の中に記憶として一生残り、今でもずっと舌と心が覚えているということである。言い換えれば、幼いときに食べていた食べ物が、食習慣の基礎になりその人自身の食文化になっていくということだと思う。
極端な例かもしれないが、「納豆」も「くさや」も物心つく前から食べていれば、たぶん、何の抵抗感もなくその人の食習慣の中に組み込まれていくことだろう。

果物類の摂取量の平均値
(20歳以上、男女計・年齢階級別、全国補正値)
果物類の摂取量の平均値
※果実類に「ジャム」は含まない。
出典:厚生労働省 「平成24年 国民健康・栄養調査結果の概要」

厚生労働省の「国民健康・栄養調査」(平成24年)によると、世代別の果実摂取量は、30代が一番少なく次いで少ないのは20代だ。普通に考えれば、小さい子供を持つ世代が一番果物を食べていないということになる。その人たちに子供がいれば、当然ながら、その家の子供たちも果実を食べる機会にあまり恵まれず、果物をそんなに食べていないことが想像できる。その子供たちが、果物を食べる習慣を身につけないまま大人になり、自分の子供にも果物をあまり与えないようになるような悪循環は、避けたいものである。

そこで重要になるのが、「食育」である。果物が、健康維持のために積極的に摂取すべき食べ物の一つであることを親子共々知ってもらい、果物を食べる食習慣を子供の時に身につけさせたい。
そのためにはまず、小中学校の給食に「地場産の季節の果物」を使ってもらいたい。給食費の範囲内でと考えると、果物はバナナやオレンジになりがちだと思うが、公的資金を導入してでも、地産地消を進めてもらいたい。授業等で、果物を提供している農家の話を聞くような機会を設けてもらいたい。それが、自分の生まれ育った地元や地元の食べ物に愛着を持つことの第一歩であるからだ。
果物は、嗜好品ではなく、毎日の食生活にとって大切な食べ物であることを、特に若い人たちには意識してもらいたい。

そのためには、果物の必要性を科学的根拠で説明することが重要であり、それが私たち研究機関に求められている役割であると思っている。

--「果実日本 2014 Vol.69 6月号」より転載--
(原文の「柔らかい」を「軟らかい」に修正しました)

 

ニホンナシ品種「甘太」
ニホンナシ品種「甘太」

農研機構果樹研究所では、昨年(平成25年)、晩生のニホンナシ「甘太」を品種登録出願した。
「甘太」の特徴は、果肉が軟らかく高糖度なことだ。晩生のニホンナシというと、「新高」がまず思い浮かぶが、「新高」のような硬い肉質に比べると、明らかに軟らかく食味が良い。また、樹勢が強く、花芽の着生が安定しているため、豊産性であるということも特徴の一つとなっている。

かっての「長十郎」が、「幸水」や「豊水」に置き換わったように、いずれ「新高」が「甘太」に取って代わられる時が来ると思っている。消費者の皆さんには、早生の「幸水」や中生の「豊水」と同じように、晩生のニホンナシも軟らかく食味の優れるものを食べていただきたいと思う。
貯蔵してある「甘太」を年明けに食べたが、十分美味しく食べることができた。ニホンナシを、正月に食べるのも乙なものである。

「甘太」の苗木は、今年(平成26年)秋季より販売される予定である。

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