果樹研究所

一押し旬の話題

2015年2月16日

東風(こち)吹かば・・

ウメの花
ウメの花

つくばでも、ウメがほころび始めた。

茨城で言えば水戸の偕楽園、つくばで言えば筑波山の梅林が有名だが、私の住む近くに梅園公園という名の公園があり、その名にちなんでウメが植えられている。
先日、散歩しがてらその公園に行ったら、緋色、薄紅色、白色の早咲きのウメが咲いていた。
立春を過ぎ、幾分暖かいと感じられる日もときおり訪れるようになってきた。自然は素直なもので、生物はDNAに組み込まれたプログラムに従い、時期が来れば花を咲かせる。

各地で「梅祭り・観梅」が始まっている、あるいはこれから始まろうとしているが、ウメの花は古来から日本人に愛されてきた。万葉集でも、サクラよりウメを詠んだ句が多い。それは、ひとえに寒さの残る春先早い時期に、サクラに先駆けて花が咲き、これから春が来ることを思い知らせてくれるからだろう。今のように暖房器具も家屋の密閉構造も充実していない昔であれば、暖かな春が来ることを待ち焦がれることは、至極当然かなとも思う。

昔から好きな言葉に、「冬来たりなば 春遠からじ」という言葉がある。厳しい冬を迎えその寒さに打ちひしがれながらも耐え忍んでいれば、やがて花開く暖かな春がやって来るという暗喩であり、落ち込むたびにこの言葉を胸中で復唱していた、次に来る新たな春を待ち望んで。
人は不思議なものである。四季それぞれの趣があり、それぞれの季節をそれぞれの状況に合わせて楽しめばいいのだけれども、春が近づいてくることを肌で感じ目で視ると、やはり気持ちが高揚する。春は始まりの季節という感が強い。

独特の芳香を持ち飲料用加工に適した ウメ品種「翠香」
独特の芳香を持ち飲料用加工に適した
ウメ品種「翠香」

今回のタイトルは、菅原道真の歌「東風(こち)吹かば匂いおこせよ梅の花 主(あるじ)なしとて春な忘れそ」から来ているが、サクラの花が心の襞(ひだ)に絡まりいろいろな想いを生じさせるように、寒空に咲くウメの花は春を待ちわびたかっての日本人にとって、心の琴線に触れる風景だ。

ウメの花には(果実にも)、独特のかぐわしい香りがある。
農研機構果樹研では、今までの主要栽培品種にはない独特の芳香を持ち飲料用加工に適した「翠香」を、2011年に品種登録している。「翠香」は、梅干しには適さないが、完熟果で梅酒・梅ジュースを作ると酸が高く香りが強い上質の製品ができる。
また、赤果肉の「露茜」を2009年に品種登録している。「露茜」は、スモモとウメの雑種であり、スモモの赤果肉の性質をウメに入れた、果皮・果肉ともに鮮紅色に着色する品種である。ただし、酸は、スモモの血が入っているせいか、普通の梅より少ない。
「露茜」の梅ジュースや梅ジャムを作ってみた。「露茜」は、酸が普通の梅より少ないので、食酢を少し加えた。人に自慢できるくらい綺麗な鮮紅色の、美味しい梅ジュースや梅ジャムができた。(赤色色素のアントシアニンは、酸性で赤色が安定するので、加えた方がいいかなと思った。ただし、食酢を加えていない場合との比較はしていない。)

果皮・果肉ともに鮮紅色に着色する ウメ品種「露茜」
果皮・果肉ともに鮮紅色に着色する
ウメ品種「露茜」

左:「露茜」のジュース 右:「露茜」の梅酒
左:「露茜」のジュース
右:「露茜」の梅酒

 

海外旅行に行った日本人が帰国した時、食べたいと思うもの。
ネットで調べてみると、炊きたての温かいご飯が恋しいという人が多い。それに加え、味噌汁も。自分なら、そこに梅干しがあったら言うことはない。梅干しと味噌汁があれば、あっという間にするするとご飯一膳を食べてしまう。
実は、梅干しも毎年自分で作る。梅干しは低塩化が進んでいるが、個人的には、昔ながらの塩辛くて酸っぱい梅干しが好きである。母親からは、「そんな塩辛いものを食べるな」と言われているが、その分それ以外のおかずの塩分を減らせばトータルの塩分量は変わらないはずなので、とんと気にしていない。やっぱり、梅干しは塩辛くて酸っぱくなくては・・。
塩分18%で梅を漬け、塩もみしてアク抜きした赤ジソを加え、あとは数日天日干しをし、漬け汁をくぐらせれば完成だ。

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