果樹研究所

一押し旬の話題

2015年5月15日

風薫る季節に

この頃、頓に(とみに)春の短さを感じる。
それは単に、年老いて時間の経過を早く感じるようになったということだけでなく、寒さが薄らぎ春のうららかな日和(ひより)を十分堪能する暇(いとま)もないまま、日差しの下にいると少し汗ばむ初夏にすぐなってしまうような気がするからだ。
ちなみに、秋もそうだ。
暑い日がいつまでも続き、ようやく涼しくなり過ごしやすくなったかと思っているうちに、急に肌寒くなり初冬に突入だ。つまり、夏が早く訪れて、そしていつまでも居座っている、ということかなと思う。

今年も、天候が不順だ。
つくばでは、4月は例年になく肌寒い日が続いたかと思うと、一転してGW間近になってからは汗ばむ暑い日が続き、4月なのに夏日を経験するの?と思ったりした。
5月に入ったら、今年初めての台風も襲来した。つくばを通り過ぎる前に、熱帯性低気圧には変わってはいたものの、こんな時期の台風なんて初めてだ。 また、4月は全国的に日照不足となり、作物の生育が芳しく(かんばしく)なかった。5月1日の日本農業新聞1面に、「天候不順で野菜品薄・高騰」、「行楽需要を直撃」の見出しで、消費増が期待できる大型連休の行楽シーズンに野菜が高騰しているとの記事が、掲載されていた。
行楽シーズンには、野菜だけでなく果物もお供の仲間に是非とも入れて欲しいものだが、5月は果物の端境期(はざかいき)にあたり、店頭に並ぶ果物で旬のものは少ない(ここでは果樹になる果実を「果物」と言っています)。

メイポメロの実 
「メイポメロ」の実

果樹研究所では、「ハッサク」と「平戸ブンタン」を交配し、5月から6月が食べ頃のブンタン「メイポメロ」を育成している。「メイポメロ」は、やや苦味があるものの独特の爽快感を感じさせる風味があり、これから暑くなるこの時期にはうってつけのカンキツである。また、房を包んでいる袋(じょうのう膜)と房のつぶつぶ(砂じょう)の分離が容易でむき身にしやすく、果肉も硬いことから、カットフルーツとして行楽のお供にもなる。
国産果実の消費拡大を図るため、果樹研究所では平成22年から毎年フルーツセミナーを開催しているが、その記念すべき第1回のテーマはカンキツだった。「メイポメロ」については、参加者の7割の方が「おいしい」と評価しており、「さわやかな味には目を見張るものあり、この時期のカンキツとしては絶品。」等のコメントをいただいている。
詳細はこちら。
第1回果樹研フルーツセミナー報告 -カンキツ研究の最前線-
「第1回果樹研究所フルーツセミナーからの報告」果樹試験研究推進協議会報Vol.18

「メイポメロ」は静岡県を中心に栽培されてはいるものの、残念ながら、農林水産省の統計データに載るほどの生産量はなく、流通が限られており、希少なカンキツとなっている。もし、出会うことができたならば、是非味わってほしい。

メイポメロのむき身 
「メイポメロ」のむき身

5月のイメージは?と問われれば、

風に踊らされてざわめく若葉の葉擦れの音、陽の移ろいに合わせその都度色合いを変えてゆく緑の眩しさ(まぶしさ)、微醺(びくん)の心地よさに身をゆだながら感じる青い匂いの漂い。要は、気持ちの良い季節のイメージだ。

悠久不変の自然と混じり合いながら一体となり、心を透明にできるこんな5月を過ごしたい。
これからは、いつも通りの天候となり、いつも通りの収穫期を迎えるような年になって欲しい。

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