果樹研究所

一押し旬の話題

2015年7月16日

核果類の多様性

皆さんも子供の頃に口にしたことのある、あるいは聞いたことのある言葉遊び。

天津水蜜桃
「天津水蜜桃(てんしんすいみつとう)」

「スモモモモモモモモノウチ」
ネットで調べてみたら、後段には2種類あった。
「スモモモモモモモモノウチモモモスモモモモモノウチ」
「スモモモモモモモモノウチスモモモモモモモウウレタカラ
モウウレヨウ」
分かりやすく表記すると、
「李も桃も桃のうち 桃も李も桃のうち」
「李も桃も桃のうち 李も桃ももう熟れたからもう売れよう」
と、なる。

ウメ、アンズ、スモモ、モモ、アーモンド、オウトウは、園芸的には核果類と呼ばれる果物だ。
核果類は、バラ科サクラ属(世界共通で生物の分類に使われている「学名」ではPrunus属)に属する果物の種類で、種子が硬い殻に包まれている。英語ではstone fruittと呼ばれるが、種を囲んでいる殻が硬いからか?
サクラ属は、スモモとモモとサクラの3つのグループ(亜属)に分かれており、スモモ亜属にはウメ・アンズ・スモモが、モモ亜属にモモ・アーモンドが、サクラ亜属にはオウトウが属する(染井吉野や大島桜や江戸彼岸などのサクラや、ニワウメ、ユスラウメも、サクラ亜属に属する)。
従って、上記の「李も桃も桃のうち」は、早口言葉としての言葉遊びなら構わないが学術的には×、とつい突っ込みたくなる。

これら核果類には、果実を食する品種に加えて、花観賞が目的の品種も多く、それらは花モモや花ウメ、あるいはサクラとして独自の世界を築いてきた。というか、かってはこちらが主流だった。今食べているスモモ、モモ、オウトウは、明治以降に日本に導入された品種が、ベースとなっている。
日本では、変わりもの(突然変異体)が好事家(こうずか)の熱意により、品種として多数保存されており、それは特に江戸時代になってからが顕著かなと思う。
江戸時代の花を愛(め)でる文化といえば、まずは朝顔や躑躅(つつじ)が思い浮かぶが、それ以外の多種多様の花にもそれは及んでおり、古来から日本人に愛されてきたウメ、モモ、サクラも、当然ながらその中に入る。

蟠桃
「蟠桃(ばんとう)」

変わりものはいろいろあり、樹姿でいえば、枝垂れ性(しだれせい)、ほうき性、矮性(わいせい)などがある。
花の形でいえば、花びら(花弁)の数は5枚が基本だが、花弁の数が多くなった八重咲きや、八重咲きの花弁が細長くなった菊咲きがある。
また、花の色はアントシアニンの蓄積量により緋色~桃色~白色までのいろんな色があることに加え、1本の樹で紅白の花が咲いている咲き分けもある。 モモでは、果実にも変異があり、果肉が通常の白色に加え赤色や黄色があるほか、果実表面に毛がなくツルツルしているネクタリンや、かの孫悟空が食べたと伝えられている平べったく円盤状の「蟠桃(ばんとう)」、桃太郎の絵に見られる果頂部が尖っている「天津水蜜桃(てんしんすいみつとう)」など、変化に富んでいる。

果樹研究所では、樹姿が枝垂れ性で、八重咲きで桃色の美しい花を咲かせる花モモ「ひなのたき」を、2010年に品種登録している。この品種は、開花の始めから終わりまで3週間以上あり、長い間花を楽しめる。また、果実の糖度はやや低いものの苦味がなく、生食ができる(ただし、果実販売とするには品質が劣るので、自家消費用である)。

ひなのたき_開花期
「ひなのたき」の開花期

ひなのたき_花
「ひなのたき」の花

また、東京農業大学との共同研究で、樹姿がほうき性、花弁が菊咲きで、桃色の花モモ「舞飛天(まいひてん)」や白色の花モモ「白楽天(はくらくてん)」を育成し、昨年(2014年)共同で品種登録出願した。どちらの品種も、残念ながら果実には渋みや苦みがあり食用とはならない。
これら3品種を、春の庭先を飾る庭園木として利用してはいかがか。

そう言えば、今はもう無くなってしまったが、実家の裏庭に大きなスモモの樹が1本あった。せん定もしていないほったらかしの状態だったと思うが(たぶん)、果実は良く成っていた(という印象が残っている。自家結実性の強いスモモだったのかな?)。
子供の頃は、よく樹に登って、完熟した果実を飽くことなく食べていた。高いところから遠くの風景を眺め、種を吹き出しつつ次から次へとスモモを食べていた記憶には、幸せの感覚しか残っていない。
何も考えていなかったあの頃に戻れたらなぁ、とふと思ってしまう時がある。

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「舞飛天」の樹姿                                         「舞飛天」の花      

 

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「白楽天」の樹姿                                         「白楽天」の花      

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