畜産草地研究所

家畜繁殖研究グループ

専門用語

アラキドン酸誘導体(アラキドンサンユウドウタイ)

必須脂肪酸であるアラキドン酸(炭素数が20個の長鎖不飽和脂肪酸)の構造の一部が変化した生理活性物質の総称で、分娩後の胎盤排出をふくむ生体の様々な調節作用に関わる物質。

遺伝子発現(イデンシハツゲン)

DNA上の遺伝子の情報がRNAに転写され、最終的にアミノ酸が多数つながったタンパク質として機能すること。最近では、RNAのままで機能する遺伝子もいくつか見つかっている。

インターフェロンτ(インターフェロンタウ)

反芻家畜の胚の着床期に胚から分泌され、妊娠認識ならびに黄体機能の維持に重要な役割を果たす物質。ウシでは、伸長した胚が子宮内膜に接着し、胎盤形成直前をピークとした一過性分泌を示す。

栄養膜細胞(エイヨウマクサイボウ)

初期胚が成長、分化し、胚盤胞を形成した時期に胚の外側に位置する胞状の膜を構成する細胞のこと。着床前にはインターフェロンτを分泌し、着床後は胎子側の胎盤を形成する。

栄養膜小胞(エイヨウマクショウホウ)

胚の外側を取り囲む栄養外胚葉(栄養膜細胞)は、妊娠認識物質であるインターフェロンタウを産生するが、胚盤胞期胚や伸長期胚の栄養外胚葉部分を切断(細切)することにより作製した小胞を栄養膜小胞とよぶ。

エピジェネティクス(エピジェネティクス)

遺伝子発現のオン・オフを調整するスイッチの役割をする。異なる遺伝子の発現を制御することで、脳細胞・筋肉細胞・皮膚細胞など、違った働きを持つ細胞が生み出される。

核移植(カクイショク)

ある細胞の核を別の細胞に移す操作をさすが、実際には1個の細胞を未受精卵に移植してクローン動物を作出する技術として有名。

過剰排卵誘起(カジョウハイランユウキ)

ドナー動物に卵胞刺激ホルモン(FSH)製剤を注射して多くの卵胞を発育・排卵させること。発情時に人工授精を行い、約1週間(6~8日)後に子宮を還流して発育した胚を回収する。

クローン動物(クローンドウブツ)

同一の遺伝形質を有する動物個体(群)のこと。核移植により作出されたクローン動物は、ドナー細胞が受精卵(初期胚割球)の場合は受精卵クローン、体細胞の場合は体細胞クローンと呼ばれる。

経腟採卵(ケイチツサイラン)

卵子を提供する動物(ドナー、供卵動物)をと畜することなく卵母細胞の採取を行う生体内卵子吸引法(ovum pick-up:OPU)のうち、腟内から卵巣に吸引針をさして卵子を採取する方法。

受精卵移植(胚移植)(ジュセイランイショク(ハイイショク))

ドナー動物からから回収した受精卵や体外培養で発育した胚を受卵(胚)動物(レシピエント)の子宮に移植し、借り腹により胎子を育てて、動物個体を生産する技術。ETは英語のembryo transferの略。

受胎率(ジュタイリツ)

交配あるいは授精に供した頭数に対する妊娠(あるいは受胎)頭数を百分率(%)で表したもの。近年、肉牛、乳牛とも受胎率は年々低下する傾向にある。

体外受精(タイガイジュセイ)

生殖器内ではなく、体外の培養液中で精子と卵子を受精させることをいう。

体外成熟(タイガイセイジュク)

卵巣内の卵子は未成熟な状態にあり、そのままでは受精できない。そこで、体外培養により受精可能な状態(減数分裂第2分裂中期)まで発生させることを体外成熟とよぶ。

ドナー(ドナー)

細胞、臓器、受精卵などを提供する個体等をいう。体細胞クローン作出の際に体細胞を提供する個体や受精卵移植の際に受精卵を提供する個体がこれに該当する。後者については、牛の場合、供胚牛や供卵牛と表現することもある。

内部細胞塊(ナイブサイボウカイ)

初期胚が成長、分化し、胚盤胞を形成した時期に胚の内側に位置する塊状の細胞群のこと。将来は胎子や胎子に付随する器官を形成する。全能性のある細胞のひとつである胚性幹細胞(ES細胞)の材料にもなる。

妊娠維持機構(ニンシンイジキコウ)

妊娠を維持するためのメカニズムのこと。詳細には解明されていない。反芻動物では発情周期が着床の時期より短いため、着床前に胚が子宮に存在することを母親に伝えないと妊娠できない。そのため、胚は受精後2週目頃から妊娠認識物質であるインターフェロンτを分泌して子宮に自分の存在を知らせる。その情報を受けた後、子宮だけでなく母親の体全体で妊娠を確実に維持するために様々なメカニズムが働く。

胚死滅(ハイシメツ)

受精卵(胚)が発生の途中で死滅すること。受精後40日頃までを胚死滅、それ以降を流産という。授精が成立した胚の数十パーセントは妊娠の途中で死滅する。胚死滅率は妊娠早期ほど高く、経過とともに低下する。

発情微弱化(ハツジョウビジャクカ)

家畜は排卵が近づくと、行動や生理機能に様々な変化が現れる。それを発情兆候という。畜産農家は様々な発情兆候から授精時期を判断するが、それらの兆候が弱くなり、授精適期が見つけにくくなること。結果的に受胎率が低下する。

ヒストンのアセチル化(ヒストンノアセチルカ)

染色体はDNAとそれに結合するタンパク質の一群であるヒストンで構成されている。ヒストンのアセチル化・脱アセチル化は、ヒストンアセチル基転移酵素やヒストン脱アセチル化酵素によって行われ、遺伝子発現の制御に関わっている。

メチル化(メチルカ)

エピジェネティクスの分子的機構の一つがDNAのメチル化であり、一般的にDNAがメチル化されると遺伝子発現がオフに、脱メチル化されるとオンになることが知られている。

卵母細胞(ランボサイボウ)

雌性生殖細胞。胎子期の卵巣に増殖した卵祖細胞が、分裂し数を増加させ、卵母細胞となる。この項では、卵、卵子、未受精卵と同じ意味で用いている。

リプログラミング(リプログラミング)

いったん特定の種類(神経、筋肉、皮膚など)に分化した細胞が、再びどんな種類の細胞にでもなれる未分化な状態に変化すること。クローン技術やiPS細胞作成においてはリプログラミングが大きな鍵になるが、その全容はいまだに解明されていない。また、本項のように、次世代を担う生殖細胞形成過程に起こる様々なゲノムの変化もリプログラミングと呼ばれる。

レシピエント(レシピエント)

受精卵や細胞などを受け入れる個体等をいう。体細胞クローンを作出する際に体細胞を移植する核を除いた卵子や受精卵を移植する雌牛がこれに該当する。後者については、牛の場合、受胚牛や受卵牛と表現することがある。

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