食品研究部門

食品機能評価ユニット

大池 秀明 (おおいけ ひであき)
Hideaki OIKE

大池秀明

メールアドレス :oike(後ろに@affrc.go.jpを追加してください)

職名

食品健康機能研究領域 食品機能評価ユニット 主任研究員

略歴

2005年 東京大学大学院 農学生命科学研究科 博士課程修了 博士(農学)
2005~2007年 東京大学大学院 農学生命科学研究科 リサーチフェロー
2007年~現在 食品総合研究所 研究員 (2016年~ 食品研究部門に改編)
2010~2012年 日本学術振興会海外特別研究員(米国ウィスコンシン大学マディソン校客員研究員)
2013年~現在 産業技術総合研究所 生物時計研究グループ客員研究員(兼任)

専門分野

体内時計(時間栄養学)、老化(加齢性難聴)、味覚

研究課題

1.時間栄養学に関する研究 (時間栄養学の簡単な解説ページ)

われわれの持つ体内時計は、食事因子によって大きな影響を受けます。また、食事の効果も体内時計が示す時刻によって変化します。このような、食事と体内時計の関係を扱う学問を「時間栄養学」と呼び、近年、急速に知見が深まっています。われわれの研究室では、時間栄養学的な視点から、栄養素や食品成分と体内時計の関わりについて研究を行っています。

◇「食品・栄養成分と生体概日リズムの相互作用に関する研究(PDF)
日本農芸化学会 奨励賞(2016)

◇「マウス時差ボケモデルにおける肥満の誘導と食餌時刻固定による抑制」
日本時間生物学会 優秀ポスター賞(2015)

マウス時差ボケモデルにおける肥満の誘導と食餌時刻固定による抑制

マウスの飼育環境の明暗サイクルを週2回6時間ずつ前進させることのみで、肥満を誘導できることを明らかにしました。また、この時差ぼけ肥満は、食事時刻を特定の12時間に固定しておくことのみで、抑制できることもわかりました(Oike et al., 2015 BBRC)。


糖とアミノ酸が朝のリズムを生み出す(参考資料)
マウスにブドウ糖とアミノ酸の混合液を注射することで、肝臓の体内時計がリセットされることを明らかにしました(Oike et al., 2011 PLoS ONE)。マウス肝臓の体内時計は、食べ始め(ヒトの朝食に相当)の時刻が遅延するとそれに合わせて4時間程度まで遅延することが明らかになりました。また、食事の代わりにブドウ糖とアミノ酸の混合液を注射しても同様に体内時計がリセットされるのに対し、ブドウ糖液、アミノ酸液の単独ではリセットされないことから、肝臓が朝食情報を認識するためには、ブドウ糖とアミノ酸の両者が存在することが必要であると判明しました。これは、バランスの良い朝食が、肝臓の目覚めを促し、1日の代謝リズムの起点になっていると解釈できます。

カフェインによる体内時計の伸長
マウスに0.04%カフェイン溶液を自由に飲用させておくと、体内時計の周期長が伸長することを明らかにしました(Oike et al., 2011 Biochem Biophys Res Commun)。このカフェインの濃度はインスタントコーヒーに含まれる程度であり、実際に、マウスに市販のインスタントコーヒーを飲用させた実験においても同様の効果が現れました。また、カフェインによる体内時計伸長作用は、マウス、ヒトの培養細胞においても確認され、動物種普遍的な現象であることが示唆されます。


高食塩食の摂取による末梢体内時計の前進
マウスに高食塩食(4%)を2週間以上自由摂取させておくと、肝臓や腎臓など末梢組織の体内時計が約3時間前進することを明らかにしました(Oike et al., 2010 Biochem Biophys Res Commun)。これは、小腸におけるナトリウム依存的なグルコース吸収が促進され、食後血糖値の上昇が急激になることに起因すると考えられます。この研究により、実際の動物個体において、食事内容の違いにより体内時計が変化しうることが示され、また、高食塩食によって引き起こされる生活習慣病の背景に体内時計が関与している可能性が示されました。


レスベラトロールによる体内時計のリセット
体内時計を有するラット由来の培養細胞にレスベラトロール(赤ワインに含まれるポリフェノール)を添加すると、時計遺伝子の発現リズムが変化することを明らかにしました(Oike and Kobori, 2008 Biosci Biotechnol Biochem)。これまで、食品成分によって体内時計が制御されるという報告はほとんど存在しておらず、食品による体内時計の調節という新しい研究分野が生まれる可能性を示しました。また、レスベラトロールは長寿遺伝子であるSirt1を活性化することが知られており、長寿遺伝子と時計遺伝子の間に何らかの接点がある可能性を見出しました。

2.食事と老化速度に関する研究

食事内容によって老化速度がどのように変化するのかを明らかにするため、マウスの加齢性難聴(マウスも歳をとると耳が遠くなる)を指標に、食事因子と老化速度の関係に関する研究を行っています。高音域の聴力は、若いころから徐々に老化が始まっており、マウスの高音域の聴力を測定することで、最短3ヶ月程度で食品成分が聴力の老化に与える影響を評価することが可能です。

食品成分による老化予防効果の評価~マウス加齢性難聴を指標にした評価系~

マウス加齢性難聴を指標にした評価系

乳酸菌H61株の摂取によるマウス加齢性難聴の抑制
※乳酸菌H61株に関する本研究成果およびデータは、原則として商用目的には引用、転載 (改変含む) の許可はしておりません。
マウスの餌に乳酸菌H61株の加熱死菌粉末を0.05%混ぜて、6ヶ月間食べさせたところ、加齢性難聴の進行が有意に抑制された。マウスの聴覚組織を解析すると、乳酸菌H61株を食べていたマウスでは、加齢による聴覚神経細胞の減少が抑制されていた。このことから、乳酸菌H61株の摂取が、加齢による聴覚神経細胞死を防ぎ、聴力の老化を予防したと考えられる(Oike et al., 2016 Scientific Reports)。

マウス加齢性難聴の抑制

主な研究業績

  • Oike H, Aoki-Yoshida A, Kimoto-Nira H, Yamagishi N, Tomita S, Sekiyama Y, Wakagi M, Sakurai M, Ippoushi K, Suzuki C, Kobori M. (2016) Dietary intake of heat-killed Lactococcus lactis H61 delays age-related hearing loss in C57BL/6J mice. Scientific Reports. 6:23556. [PDF] 乳酸菌H61株による加齢性難聴の進行抑制
  • Oike H, Sakurai M, Ippoushi K, Kobori M. (2015) Time-fixed feeding prevents obesity induced by chronic advances of light/dark cycles in mouse models of jet-lag/shift work. Biochem Biophys Res Commun 456(3):556-561. [PubMed] マウスの時差ボケ飼育による肥満誘導と食餌時刻固定による肥満の抑制
  • Oike H, Oishi K, Kobori M (2014) Nutrients, Clock genes, and Chrononutrition. Curr Nutr Rep. 3(3) [PDF]時間栄養学に関する総説
  • Oike H, Nagai K, Fukushima T, Ishida N, Kobori M (2011) Feeding Cues and Injected Nutrients Induce Acute Expression of Multiple Clock Genes in the Mouse Liver. PLoS ONE. 6(8): e23709. [PDF]「糖とアミノ酸が朝のリズムを生み出す(日本語の説明)」
  • Oike H, Kobori M, Suzuki T, Ishida N (2011) Caffeine lengthens circadian rhythms in mice. Biochem Biophys Res Commun. 410(3):654-8. [PubMed] カフェインによるマウス体内時計の伸長
  • Oike H, Nagai K, Fukushima T, Ishida N, Kobori M (2010) High-salt diet advances molecular circadian rhythms in mouse peripheral tissues. Biochem Biophys Res Commun,, 402(1):7-13.[PubMed] 高食塩食によるマウス末梢体内時計の前進
  • Oike H, Kobori M (2008) Resveratrol Regulates Circadian Clock Genes in Rat-1 Fibroblast Cells. Biosci Biotech Biochem. 72(11):3038-40.[PubMed] レスベラトロールによる培養細胞の体内時計リセット
  • Oike H, Nagai T, Okada S, Furuyama A, Aihara Y, Ishimaru Y, Marui T, Matsumoto I, Misaka T, Abe K. (2007) Characterization of the ligands for fish taste receptors. J Neurosci. 27, 5584-5592 [PubMed] 魚類味覚受容体のリガンド同定
  • Oike H, Wakamori M, Mori Y, Nakanishi H, Taguchi R, Misaka T, Matsumoto I, Abe K. (2006) Arachidonic acid can function as a signaling modulator by activating the TRPM5 cation channel in taste receptor cells. Biochim Biophys Acta. 1761, 1078-1084[PubMed] アラキドン酸によるTRPM5チャンネルの調節
  • Oike H, Matsumoto I, Abe K. (2006) Group IIA phospholipase A2 is coexpressed with SNAP-25 in mature taste receptor cells of rat circumvallate papillae. J Comp Neurol. 494, 876-886.[PubMed] 成熟味細胞のみに発現するPLA2の報告

<日本語の執筆/報告書等>

  • 大池秀明、食品成分による老化予防効果の評価~マウス加齢性難聴を利用した評価系~、食品と容器(缶詰技術研究会)、56(3), 187-191 (2015)
  • 大池秀明、朝食で体内時計をリセット、AFC Forum(日本政策金融公庫)、1月号、32 (2013)
  • 大池秀明(2010)体内時計と食べ物との関係、農業技術(農業技術協会)、65(7):41-45
  • 大池秀明(2009)食品による体内時計の調節、化学と生物(日本農芸化学会)、47(10):666-668
  • 大池秀明(2009)食品による体内時計の調節、ソフト・ドリンク技術資料(全国清涼飲料工業会)、158(2):49-61
  • 大池秀明(2009)培養細胞を用いたサーカディアンリズム調節機能の評価、食品機能評価マニュアル集・第III集(食品機能性評価支援センター)、pp105-112

関連リンク