(更新:2010年08月25日)
I-(2)-4 マイクロ・ナノバブル水の動態解析と特性解明
(担当:大下誠一)
マイクロ・ナノバブル(以下、MNB)水の動態解析を行い、酸素、キセノン、空気等の単なる気体溶解水との特性の差異を、バブルの滞留時間や溶解ガス濃度との関係などから明らかにする。さらに、植物細胞内水の動的状態変化を検証し、細胞の代謝への影響を明らかにする。
研究内容
- 酸素ナノバブルの存在
MNB水の生成に株式会社ニクニ製の基本ユニットとマイクロバブル発生装置(株式会社オーラテック)の2種類を用いた。まず、光学顕微鏡観察により、水中の酸素マイクロバブルの映像を記録した。これにより直径100μm程度の酸素マイクロバブルが次第に縮小して消える映像も記録したが、酸素が水中に溶解してバブル自体が消滅したのか、光学顕微鏡では確認できないナノバブルとして存在しているのか問題が残った。そこで、動的光散乱法に基づく粒子径測定装置(Nano-ZS:シスメックス株式会社,測定範囲0.6~6μm)による測定を行い、純水製造装置(ミリポア社 DirectQ)による純水と純酸素との組み合わせでMNBを生成した場合、光強度分布から算出された直径200nm前後の粒子が約2週間滞留するデータが得られた。一方、酸素MNB水では、プロトン緩和時間T1が常磁性を有する酸素分子のために短く観察されるが、常磁性緩和剤であるMn2+を添加して酸素分子の影響をマスクすることにより、酸素バブルの生成に起因するT1の増大を確認した。図左に10mMのMn2+溶液とこの溶液に酸素バブルを生成させた場合のT1を、右に10mMのMn2+溶液とこの溶液に散気管を通して酸素を溶解させたバブルが無い場合のT1を示した。溶存酸素濃度は、両者ともほぼ同じレベルである。この結果と粒子径の測定結果により、ナノサイズのバブルの存在がほぼ確認された。特に酸素MNB水で緩和時間T1が長くなる結果は、酸素ナノバブルと水分子との相互作用により水の動的特性が変化することを初めて示したもので、酸素MNB水の動態変化を解明する基礎データが得られたと考える。
図1 Mn2+溶液、酸素バブル水(左)及び酸素溶解水(右)のプロトン緩和時間T1 - 植物細胞内水の動的状態変化
播種後11日目に採取したオオムギ子葉鞘細胞から一層に剥離した細胞片(3×10mm,細胞数1300~1500)を調製し、20℃で原形質流動速度を比較した結果、蒸留水よりも酸素MNB水に浮かべた場合に原形質流動速度が有意に速くなった。これは酸素MNB水が植物細胞の代謝に影響を与えた結果であると考えたが、溶存酸素濃度が蒸留水で8.6 mg/L、酸素MNB水で41.5 mg/Lと大きく違ったことが原因である可能性もある。今後の検討が必要である。
参考文献
- F.Y. Ushikubo, T. Furukawa, R. Nakagawa, M. Enari, Y. Makino, Y. Kawagoe, T. Shiina, S. Oshita: Evidence of the existence and the stability of nano-bubbles in water, Colloids and Surfaces A: Physicochemical and Engineering Aspects, 361, 31-37, 2010