品質情報解析研究室  
食品のサンプリングに関するガイダンス
 
ガイダンスの目的

サンプリング基礎

サンプリング手法
実施前のチェックリスト
理論的サンプル数
  基本事項
平均値推定の場合
比率推定の場合
 ・ サンプリング計画の評価手順
  アフラトキシン検査のサンプリング
OC曲線
OC曲線に必要な情報
OC曲線の作成
偽陽性率と偽陰性率の計算
推定精度の評価
  正規分布を用いた方法
ブートストラップ法
かび毒の計画立案
発生率と見逃し率
複数ロットの混合
報告書記載事項
 
 
参考文献
  TOP
  Q&A   関連用語   関連リンク   更新履歴


食品のサンプリングに関するガイダンス > かび毒の計画立案

かび毒に関するサンプリング計画の立て方


1. 調査対象のかび毒の分析方法およびサンプリング方法に関する規格を調査します。
Codex STAN 209-1999, Rev.1-2001
(23.3KB A4サイズ 2ページ)
Maximum level and sampling plan for total aflatoxins in peanuts intended for further processing
  • 対象:落花生
  • ロットから抜き取るサンプル量:
    20kg(殻なし)、27kg(殻付)インクリメント200g以上で20kgのラボラトリサンプルを構成する。
  • 粉砕方法:
    ハンマーミル(#14網目フィルター、穴の直径3.1mm)
  • 粉砕したサンプルから分析用に取るサンプル(サブサンプル)の量:
    100g以上
  • 粉砕したサンプルを均等に分割したサブサンプルの分析値の平均値をロットの アフラトキシン濃度とする。
  • 分析方法:AOACなど国際的な学会で採用されている方法
  • 基準値:15ppb(全アフラトキシン)
EUのかび毒のサンプリング方法の規則
(135KB A4サイズ 23ページ)
Commission Regulation (EC) No 401/2006 of 23 February 2006
laying down the methods of sampling and analysis for the official control of the levels of mycotoxins in foodstuffs

2. 規格がない場合は調査対象のかび毒の分析値の精度に関する報告を探します。

最低限知りたい情報は

  • ロットから抜き取るサンプル量
  • 粉砕方法(粉砕器の種類、メッシュサイズなど)
  • 粉砕したサンプルから分析用に取るサンプル量
  • 分析方法
  • 基準値付近の分析値について、ロットのばらつきに関する統計量
    (分散、不偏標準偏差、又は変動係数)

    です。これらの情報から調査精度を満たすために必要な理論的サンプル数を計算できます。

    さらに、
  • かび毒の濃度による分析値のばらつきがサンプル量、粉砕したサンプル量、 分析回数によりどのように変化するかを表したモデル式
  • ロットのかび毒濃度によりロットから抜き取ったサンプルのかび毒の分析値がどのようにばらつくかを表したロット内分布に関するモデル式
  • ロットのかび毒濃度の相対頻度分布

    があるとOC曲線を用いた偽陽性率と偽陰性率の詳細な検討が可能になります。
3. 関連報告がない場合は、基準値付近の濃度のロットのばらつき(分散)を調査する予備試験が実施できないか検討します。

 

4. サンプリング計画を立てるのに必要な情報がどうしても得られない場合は、かび毒の汚染の広がり方がアフラトキシンに似ているのかデオキシニバレノールに似ているかを判断し、似ている方のかび毒のサンプリング計画を参考にすると良いでしょう。
  • アフラトキシンを産生する菌は植物病原性がないため汚染が圃場全体に広がることはありません。
  • デオキシニバレノールを産生する菌は植物病原性があるため小麦の赤かび病のように汚染が圃場全体に広がります。
  • オクラトキシンを産生する菌はいろいろあり、植物病原性のある菌とない菌がいます。
    したがって、汚染の広がり方はアフラトキシン、デオキシニバレノール両方のタイプがあります。調査対象の菌がどちらのタイプか特定できない場合は、ばらつきが大きいアフラトキシンのサンプルリング計画を参考にした方が調査精度を満たすためには良いでしょう。
  • フモニシンを産生する菌は植物病原性があるため汚染の広がり方はデオキシニバレノールのタイプになります。

    注)
  • 穀物のアフラトキシン汚染では単位重量当りの粒数が多い(粒が小さい)穀物の方が 分析値のばらつきが小さくなります。
  • 濃度が低くなるほど分析値のばらつきは大きくなります。
  • サンプル量を決めるときにはこれら2点も考慮します。
5. サンプリングプランに必要な情報がないときにアフラトキシンタイプの汚染を参考にする場合

引用文献:Johanssonら(2000a)(154KB A4サイズ 2ページ) 、皮むきコーンのアフラトキシン

ここでの計算の前提条件としてロットのアフラトキシン濃度の分布は正規分布と仮定します。実際の分布は右側に裾を長く引く分布であり正規分布ではないことが知られています。したがって、以下のロットのアフラトキシン濃度の信頼区間はあくまでも目安と考えて下さい。
Codexのアフラトキシンの基準値15ppbにおける分析値のばらつき(分散)をJohanssonらのモデル式を用いて計算します。

ロットから抜き取るサンプル量とロットのアフラトキシン濃度の推定精度(グラフ)

ロットから抜き取るサンプル量とロットのアフラトキシン濃度の推定精度
ロットから抜き取るサンプル数:1個
粉砕したサンプルから分析用に取るサブサンプル量:50g
分析方法及び同一抽出液の分析回数:液体クロマトグラフィ、1回

サンプル量を増やすとロットのアフラトキシン濃度の推定精度が良くなります(95%信頼区間が狭くなります)。しかし、サンプル量が10kg以上では精度があまり向上していません。
分析値の分散を、1)サンプル量による分散、2)粉砕したサンプルから取るサンプル量による分散、3)分析回数による分散の3種類に分けますと、

サンプル量

1)の分散

2)の分散

3)の分散

1kg

184.0

39.1

3.3

5kg

36.8

39.1

3.3

10kg

18.4

39.1

3.3

となります。1)の分散は各サンプル量のときの分散、2)の分散はサブサンプル50gのときの分散、3)の分散は同一抽出液を1回分析したときの分散です。
サンプル量5kgでは1)の分散よりも2)の分散の方が大きくなっていますので、ロットのアフラトキシン濃度の推定精度を向上させるためにはサンプル量だけでなく、粉砕したサンプルから取る分析用サンプルの量も増やす必要があります。

粉砕したサンプルから取る分析用サンプル(サブサンプル)の量とロットのアフラトキシン濃度の推定精度(グラフ)

粉砕したサンプルから取る分析用サンプル(サブサンプル)の量と
ロットのアフラトキシン濃度の推定精度

ロットから抜き取るサンプル数:1個
ロットから抜き取るサンプル量:5kg
分析方法及び同一抽出液の分析回数:液体クロマトグラフィ、1回

サブサンプルの量を増やすとロットのアフラトキシン濃度の推定精度は良くなります。
分析値の分散を3種類に分けますと、

サブサンプルの量(g)

1)の分散

2)の分散

3)の分散

50g

36.8

39.1

3.3

100g

36.8

19.5

3.3

150g

36.8

13.0

3.3

となります。1)の分散はサンプル量5kgのときの分散、2)の分散は各サブサンプル量のときの分散、3)は同一抽出液を1回分析したときの分散です。
サブサンプルの量を100g以上にすると1)の分散の方が2)の分散よりも大きくなります。
1)と2)の分散に比べ3)の分散は明らかに小さいためロットのアフラトキシン濃度の推定精度を向上させるには、サンプル量とサブサンプル量の両方を増やすのが効果的です。

ロットから抜き取るサンプル量とロットのアフラトキシン濃度の推定精度

ロットから抜き取るサンプル量とロットのアフラトキシン濃度の推定精度
ロットから抜き取るサンプル数:1個
粉砕したサンプルから分析用に取るサブサンプル量:250g
分析方法及び同一抽出液の分析回数:液体クロマトグラフィ、1回

サブサンプル量250gのときの2)の分散7.8は、サンプル量20kgのときの1)の分散9.2より小さいため、サブサンプル量を250(g)とした場合は、サンプル量20kgまでの範囲でサンプル量を増やすとロットのアフラトキシン濃度の推定精度も向上します。

推定精度をさらに向上させたい場合は、1つのロットから複数サンプル抜き取って各サンプルの分析値の平均値を求めると効果があります。

ロットから抜き取るサンプル数とロットのアフラトキシン濃度の推定精度(グラフ)

ロットから抜き取るサンプル数とロットのアフラトキシン濃度の推定精度
粉砕したサンプルから分析用に取るサブサンプル量:100g
分析方法及び同一抽出液の分析回数:液体クロマトグラフィ、1回

6. サンプリングプランに必要な情報がないときにデオキシニバレノールの汚染を参考にする場合

引用文献:Whitakerら(2000)(161KB A4サイズ 2ページ)、小麦のデオキシニバレノール

ここでの計算の前提条件としてロットのデオキシニバレノール濃度の分布は正規分布と仮定します。実際の分布は右側に裾を長く引く分布であり正規分布ではないことが知られています。したがって、以下のロットのデオキシニバレノール濃度の信頼区間はあくまでも目安と考えて下さい。
厚生労働省の小麦のデオキシニバレノールの暫定基準値1.1ppmに近い1ppmにおける分析値のばらつき(分散)をWhitakerらのモデル式を用いて計算します。

ロットから抜き取るサンプル量とロットのデオキシニバレノール濃度の推定精度(グラフ)

ロットから抜き取るサンプル量とロットのデオキシニバレノール濃度の推定精度
ロットから抜き取るサンプル数:1個
粉砕したサンプルから分析用に取るサブサンプル量:25g
分析方法及び同一抽出液の分析回数:Romer Fluoroquent法、1回

サンプル量を増やしてもロットのデオキシニバレノール濃度の推定精度はほとんど向上しません。サンプル量0.5kgと1kgの95%信頼区間はそれぞれ0.3~1.7ppm、0.4~1.6ppmです。
分析値の分散を、1)サンプル量による分散、2)粉砕したサンプルから取るサンプル量による分散、3)分析回数による分散の3種類に分けますと、

サンプル量

1)の分散

2)の分散

3)の分散

0.5kg

0.024

0.066

0.026

1kg

0.012

0.066

0.026

5kg

0.002

0.066

0.026

となります。1)の分散は各サンプル量のときの分散、2)の分散はサブサンプル25gのときの分散、3)の分散は同一の抽出液を1回分析したときの分散です。
 小麦のデオキシニバレノールでは1)の分散よりも2)の分散の方が大きいため、ロットのデオキシニバレノール濃度の推定精度を向上させるには、粉砕したサンプルから分析用に取るサンプル(サブサンプル)の量を増やす必要があります。

粉砕サンプルから取る分析用サンプル(サブサンプル)の量とロットのデオキシニバレノール濃度の推定精度(グラフ)

粉砕サンプルから取る分析用サンプル(サブサンプル)の量と
ロットのデオキシニバレノール濃度の推定精度

ロットから抜き取るサンプル数:1個
ロットから抜き取るサンプル量:1kg

サブサンプルの量50gと100gの95%信頼区間は両方とも0.5~1.5ppmになります。サブサンプル量を150g以上にすると95%信頼区間は0.6~1.4ppmになります。
分析値の分散を3種類に分けますと、

サブサンプル量

1)の分散

2)の分散

3)の分散

25g

0.012

0.066

0.026

50g

0.012

0.033

0.026

100g

0.012

0.017

0.026

になります。1)の分散はサンプル量1kgのときの分散、2)の分散は各サブサンプル量のときの分散、3)の分散は同一抽出液を1回分析したときの分散です。
 サンプル量0.5kg以上では1)の分散よりも3)の分散の方が大きいため、同一抽出液を繰り返し分析する回数を増やす方がサンプル量を増やすよりもロットのデオキシニバレノール濃度の推定精度を向上させる効果がありそうですが、サンプル量1kg、サブサンプル量100g、分析回数2回の95%信頼区間は0.6~1.4ppmです。

トップページへ戻る   このページのトップへ