果樹研究所

一押し旬の話題

2015年3月18日

カンキツの無核化を目指して

品種を育成するときの目標は、果樹それぞれによって異なる。

全ての樹種に共通な目標としては、勿論「美味しさ(より甘く、より多汁に)」があるが、最近はそれに「食べやすさ」が加わっている。「食べやすさ」は、例えば、ブドウなら「種がなく(無核という)、皮ごと食べられること」、クリなら「渋皮が剥(む)けること」が目標になる。カンキツでは、➀皮が手で剥けること、➁種がないこと、➂房を包んでいる袋(じょうのう膜)が薄いことが、目標となっている。

➀で言えば、ウンシュウミカンに慣れた日本人なら、オレンジのように皮の剥けないカンキツは「食べるのに不便」と思うに違いない。➁で言えば、ウンシュウミカンに種が入っていることがあまりないため、種の多いポンカンを食べたりすると、確かに「種は邪魔だ」と思う人が多いかもしれない。➂で言えば、房ごと食べるウンシュウミカンに比べ、イヨカン(伊予柑)やハッサク(八朔)のようにじょうのう膜が厚いカンキツは、食べるために袋を切り裂く手間がいることから、「面倒くさい」と思われてしまうような気がする。

「清見」
「清見」

このようなウンシュウミカンの良いところを活かしつつ、カンキツの品種の幅を広げるために、ウンシュウミカンとオレンジを交雑し、「清見」(「宮川早生」?「トロビタオレンジ」)を育成した。「清見」は、品種育成の親として優れた特性を持っており(その特性の紹介は、別の機会に)、「清見」を親にあるいは「清見」の子供を親にしていろんな品種(「清見」ファミリー)が生まれた。
「不知火(通称:デコポン)」や「はるみ」は「清見」の子供だし、「せとか」は「清見」の孫にあたる。
「清見」は、その優秀性が認められ、果樹研究所の「清見」育種グループに対して、平成14年度日本育種学会賞が授与された。

カンキツを種なしにするには、それなりの仕組みが必要で、それは「雌性不稔性」か「雄性不稔性」または「自家不和合性」であり、なおかつ「単為結果性」も必要である。
雌性不稔性とは、雌しべが機能不全であり花粉がついても種ができない性質であり、雄性不稔性とは、雄しべが機能不全で生殖能力のある花粉ができない性質である。自家不和合性とは、自分の花粉では受精せず種ができない性質である。
雌性不稔性なら、どんな品種の花粉がかかっても種はできない。雄性不稔や自家不和合性なら、他品種の花粉がかからない限り種はできない。
また、単為結果性とは、受精しなくとも果実が発達する性質である。通常は、種が入らないと、果実が肥大せず落果してしまうが、単為結果性だと果実が大きくなる。

「かんきつ中間母本農6号」
「かんきつ中間母本農6号」

紀伊國屋文左衛門で有名な紀州ミカンに、「無核紀州」という品種がある。この品種は、雌性不稔のため無核となる。
果樹研究所では、無核品種の育成を目指し、「キングマンダリン」と「無核紀州」を交雑し、「かんきつ中間母本農6号」を育成した。中間母本とは、実用品種とするには欠点があるが、品種育成の親としては有用な品種のことをいう。
「かんきつ中間母本農6号」は、果実が小さくて、皮が剥きにくい。しかし、風味が良く良食味で、β-クリプトキサンチンをはじめとする各種の機能性成分を多く含む。また、雌性不稔により無核だが、健全花粉を持つため交配に利用でき、交雑した後代には無核個体が高率で出現する。そのため、無核性、良食味性及び機能性成分高含有のカンキツ新品種育成のための花粉親として有用であり、中間母本として2004年に品種登録した。

この「かんきつ中間母本農6号」は、中間母本ではあるものの、その良食味に惚れ込んでくれる方々がいて、「ジュースで飲めば濃厚な味が絶品」、「いやいや生果でもいける」というような評価をいただいている品種である。

(「かんきつ中間母本農6号」については、果樹研究所ニュースNo.43でも紹介しています。)

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