寒地酪農衛生研究領域では
北海道は、わが国の生乳生産量のおよそ半分を供給している大酪農地帯です。大規模酪農現場では、乳房炎や乳頭腫症などの泌乳障害、感染による下痢・肺炎など、乳牛の生産性を阻害する疾病が大きな問題となっています。寒地酪農衛生研究領域では、細菌学、ウイルス学、病理学、生化学、免疫学をそれぞれ専門とする研究者が、これらの疾病の診断・防除技術を高度化するため、各種の研究課題を実施しています。
主な研究対象
牛乳房炎に関する研究
生体側から牛乳房炎の発症機構を解析するとともに、牛乳房炎から分離した黄色ブドウ球菌は特定の遺伝子型に属することなど、病原体側の特徴を明らかにしてきました。現在は、生体側および病原体側の両方向から乳房炎の発病機構を解析するとともに、乳房炎のワクチン開発を目指した研究を実施しています。

牛サルモネラ症に関する研究
感染源・感染経路を迅速に特定するための疫学的解析システムを構築するため、サルモネラの遺伝子型等に基づくデータベースの構築を目指します。また、近年問題となっている、成牛型サルモネラ症の発病機構を解明するため、原因菌における毒素産生能およびその生物活性について解析を進めています。


牛コロナウイルスの流行動態および発病機構の解明
牛の伝染性下痢を引き起こす牛コロナウイルスが4つの遺伝子型に分けられることを明らかにしました。また、PCR-制限酵素断片長多型(RFLP)を利用した遺伝子型別法や高感度で多検体処理が可能な抗原検出ELISA法を開発しました。現在は牛体内におけるウイルス感染様式と病気発生機序の解明を行っています。


牛パピローマウイルス感染症の研究
新型牛パピローマウイルス(BPV)による牛乳頭腫が北日本で多発し、生乳生産の阻害要因となっていることを明らかにしました。現在は、牛乳頭腫症の診断法および防除法の開発研究や、BPVとその関連疾患の多様性解明を目指した研究を行っています。
リンパ造血系腫瘍に関する研究
リンパ腫、リンパ性白血病、骨髄性白血病などを組織学的、免疫組織化学的に調べ、腫瘍細胞の特徴と起源に基づいた分類を実施しています。牛白血症ウイルスと関連するリンパ腫の多くは、細胞学的な多形性と異型性を示し(多形型リンパ腫)、他のリンパ球系腫瘍とは明瞭に区別できます。
主要研究成果
- Salmonella Typhimurium DT104は百日咳毒素様のADP-リボシル化酵素を産生する
- PCR-制限酵素断片長多型(RFLP)を用いた牛コロナウイルス遺伝子型別法
- 新型牛パピローマウイルスBPV-9は牛の上皮性乳頭腫症の原因となる
- インターロイキン-8の乳槽内投与は全身性の炎症反応を誘発する
- 黄色ブドウ球菌のバルク乳由来株はヒト由来株と異なる遺伝学的背景を示す
- 新型牛パピローマウイルス(BPV-9、BPV-10)の全ゲノム構造の解明
- エゾシカから初めて分離されたトリパノソーマ原虫
- 牛コロナウイルス日本分離株の分子疫学的解析
- 牛乳房炎乳から分離された黄色ブドウ球菌の細菌学的特性
- 牛T細胞性リンパ腫における新しい疾病概念の確立





