リンゴ「ふじ」のハプロタイプ家系解析で蜜入りなどの原因染色体領域を解明

要約

リンゴ「ふじ」の染色体上に散在する大量のSNP遺伝子型から、家系品種(脚注1)への「ふじ」染色体の伝播が追跡できる。「ふじ」が保有する「蜜入り」、「低粉質化」などの有用形質の原因染色体領域が明らかにできる。

  • キーワード:「ふじ」、ゲノム解読、SNPマーカー、ハプロタイプ、蜜入り、粉質化
  • 担当:果樹茶業研究部門・品種育成研究領域・ゲノムユニット
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

農研機構育成品種のリンゴ「ふじ」は、国内栽培面積の52%を占め、日持ち性、食味などに優れた品種であり、「ふじ」を育種親とした優良品種も数多く育成されている。「ふじ」のゲノム解読に基づく全染色体レベルの解析を通して、これらの家系品種の染色体上に散在する「ふじ」由来の染色体領域の型(ハプロタイプ)と形質との相関を調査することで、「ふじ」の優良形質を制御する染色体領域を明らかにする。これにより、「ふじ」を越える新品種のゲノム選抜による効率的な育成に資する。

成果の内容・特徴

  • 次世代シーケンサーで解読した「ふじ」のゲノム配列は、「ゴールデンデリシャス」の公開配列と比較すると、約282万箇所の一塩基多型(SNP)や欠失・挿入による多型が検出される。
  • 「ふじ」の染色体は、「国光」および「デリシャス」由来の染色体で構成され、ハプロタイプは「国光」型と「デリシャス」型に区別できる。開発した1,014のSNPマーカー遺伝子型により、115家系品種・系統に伝播した「ふじ」の染色体領域とハプロタイプを追跡できる(図1)。
  • 染色体領域ごとに、「国光」型を持つ品種と「デリシャス」型を持つ品種の形質を分散分析で比較すると、収穫期、酸度、蜜入り、粉質化程度(日持ち性の指標)を制御すると考えられる領域がそれぞれ第16、8、14、1染色体上に検出される。
  • 蜜入りの制御領域である第14番染色体32.4cM付近の領域が「デリシャス」型の品種は、この領域が「国光」型またはその他の品種と比較して、蜜が入りやすい(図2-a、「デリシャス」型、「国光」型、その他の品種の中央値は1.05、0.09、0.08)。
  • 粉質化の制御領域である第1番染色体30.4~38.2cMの領域が「デリシャス」型の品種は、この領域が「国光」型の品種と比較して、粉質化程度が高い(図2-b、「デリシャス」型、「国光」型の品種の平均値は0.54、0.13)。品種または品種候補として選抜された42の優良な「ふじ」後代では、9割がこの領域に「国光」型を保有している。

成果の活用面・留意点

  • リンゴの蜜入りおよび低粉質化に関わる染色体領域のハプロタイプについては、それぞれ、MdFJ_1.036、MdFJ_1.010などのSNPマーカー遺伝子型から推定可能であるが、交配組み合わせによっては適切なマーカーを再選択する必要がある。
    脚注1)家系品種:「ふじ」を祖先とした品種、および「ふじ」の親を祖先とした品種(図1参照)

具体的データ

図1 「ふじ」家系品種の系譜および伝播した染色体領域のハプロタイプ?図2 制御領域のハプロタイプによる品種群の「蜜入り」および「粉質化」程度の差

その他

  • 予算区分:委託プロ(次世代ゲノム)
  • 研究期間:2013~2016年度
  • 研究担当者:國久美由紀、森谷茂樹、阿部和幸、岡田和馬、土師岳、林武司、川原善浩、伊藤龍太郎、伊藤剛、片寄裕一、金森裕之、松本敏美、森聡美、佐々木晴美、松本隆、西谷千佳子、寺上伸吾、山本俊哉
  • 発表論文等:Kunihisa M. et al. (2016) Breed. Sci. 66:499-515