有機物長期連用ブドウ園地における土壌中全炭素の蓄積特性

要約

有機物長期連用ブドウ園の表層0-10cmにおける土壌炭素濃度は、稲わら表面施用では3年、牛ふん堆肥では10年程度、バーク堆肥では20年程度の施用で増加が見られなくなる。一方、草生管理は下層(深さ20-30cm)まで全炭素濃度を増加させる。

  • キーワード:有機物、土壌炭素、ブドウ園、長期連用
  • 担当:果樹・茶・ナシクリ等
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・栽培・流通利用研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

樹園地では、地表面を裸地状態に保つ清耕管理や、地表面全面あるいは一部を草で覆う草生管理、わらや刈草を敷き詰める敷きわら管理、堆肥等の表面施用など様々な地表面管理が行われている。地表面管理における堆肥の施用は土壌改良を目的とする場合が多いが、長期にわたる地表面管理が有機物(本成果では有機物量を土壌炭素で評価)の蓄積に及ぼす影響について研究した例は少ない。ここでは黒ボク土のブドウ園における28年間の地表面管理が土壌中全炭素濃度へ及ぼす影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 有機物の供給場所である表層0-10cmにおいて、有機物を施用しない清耕区での全炭素濃度は試験開始からほぼ一定に推移する。一方、稲わら(1.5t/10a、炭素量510kg/10a)を地表面に敷き詰めた稲わら区、牛ふん堆肥区(3t/10a、炭素量400kg/10a)、バーク堆肥区(3t/10a、炭素量490kg/10a)における表層の土壌炭素濃度は、試験開始からそれぞれ3年、10年程度、20年程度の間は増加するが、その後はほとんど増加しない(図1)。2010年における土壌炭素濃度は、バーク堆肥区と草生区では同程度、次いで牛ふん堆肥区、稲わら区、清耕区の順である。
  • 深さ10-20cmにおける土壌中の全炭素濃度は、清耕区と稲わら区では試験開始からほぼ同じ値で推移する一方、牛ふん堆肥区やバーク堆肥区では増加し、草生区では試験開始からやや高い値で推移するが、これらの3区における最大値はいずれも50 g kg –1程度である(図1)。
  • 深さ20-30cmにおける土壌中の全炭素濃度は、草生区を除き多少の変動はあるものの試験開始から大きな変化は見られない(図1)。表層0-10cmに施用された有機物由来の炭素は下層20-30cmへほとんど移動しないため、有機物を長期連用すると表層と下層における土壌炭素濃度の差が拡大する。
  • 28年間における単位面積当たりの土壌炭素の増加量(深さ30cmまで)には、表層0-10cmの炭素蓄積量が大きく影響し、当該蓄積量が多いバーク堆肥区で3960 kg/10a、牛ふん堆肥区で2480 kg/10aと多く、当該蓄積量が少ない稲わら区で864kg/10aと少ない。

成果の活用面・留意点

  • 施用する有機物資材の種類、特に土壌中における分解のしやすさによって、土壌炭素濃度が平衡に達するまでの期間は異なることが考えられる。
  • 本試験における堆肥等の施用量(3t/10a)は土壌改良を想定して決められたものであり、近年の肥料濃度が高まった堆肥を同程度施用した場合、土壌への養分(特にリンやカリウム)の蓄積が懸念される。
  • バーク堆肥や牛ふん堆肥には肥料成分の供給、稲わらの敷き詰めは抑草効果、草生には土壌侵食の防止などの効果があり、地表面管理の良否は土壌炭素量の増加のみで判断できるものではない。

具体的データ

 図1

その他

  • 中課題名:高商品性ニホンナシ・クリ及び核果類の品種育成と省力生産技術の開発
  • 中課題番号:142a0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(気候変動(農業緩和技術))
  • 研究期間:1983~2012年
  • 研究担当者:井上博道、梅宮善章、草塲新之助、杉浦裕義
  • 発表論文等:井上ら(2012)土肥誌、83:687-690