イチジク株枯病抵抗性をもつイチジクとイヌビワの種間交雑体の獲得

要約

イチジク花のうにイヌビワの花粉を受粉することによって、交雑種子を多数獲得できる。種子の発芽率は高いが、生存率は数%である。種間交雑体は、イチジク株枯病に対してイヌビワと同程度の強い抵抗性をもつ。

  • キーワード:イチジク、イヌビワ、イチジク株枯病、抵抗性、種間雑種
  • 担当:果樹・茶・ブドウ・カキ
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・ブドウ・カキ研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

イチジク(Ficus carica L.)は近年生産地が増加傾向にある樹種であるが、各産地でイチジク株枯病が発生し問題になっている。本病が発病すると葉が萎凋して最終的に枯死する。本病は主に土壌伝染し、発生園地に新植した苗木が数年内に枯死に至る難防除病害である。対策法として、抵抗性台木の開発が強く望まれているが、イチジクは罹病性である。一方、日本に自生するイチジク属野生種のイヌビワ(Ficus erecta Thunb.)は、イチジク株枯病に極めて強い抵抗性(免疫性)である。しかし、両種間の接ぎ木親和性は極めて低いため、イヌビワを台木として利用できない。そこで、抵抗性台木の素材開発を目的に、種間交雑体を獲得し、その病害抵抗性を評価する。

成果の内容・特徴

  • イチジク花のう(直径15~25mm)の赤道面と果頂部に小さな穴を開け、イヌビワ雄株(系統:広島1)の成熟果から採取した花粉(石松子4~5倍希釈)をスポイトで吹き込むことによって人工受粉できる。
  • 人工受粉によって結実した果実は、ほとんど落果することなく、正常に成熟し、1果当たり200~400個の種子を採取できる(表1)。当該種子の発芽率は70%以上と高く、初期の生育は良好であるが、根が枯死する交雑実生が徐々に増加するため、1年後の生存率は数%である(表1)
  • イヌビワの成葉には裂刻はないが、種間交雑体の成葉にはイチジクと同様に裂刻がある(図1)。種間交雑体の葉の大きさ、葉柄長および葉柄径は、イチジクとイヌビワの中間である(データ略)。
  • 3種類のSSRともに両親由来の各SSRが一つずつ確認されることから、イチジク4品種とイヌビワとの交雑で得られた実生は、種間交雑体である(表2)。
  • イチジク株枯病菌を幼苗の茎に接種すると「桝井ドーフィン」および「蓬莱柿」は接種後15日、70日までに各々すべて枯死する(表3)。比較的抵抗性が強いとされる「Boldido Negra」および「Celeste」は、接種後100日で60~70%が枯死する。一方、イヌビワおよび種間交雑体の2系統については、接種部位の病斑は拡大せず、接種後100日においても衰弱・枯死しない。

成果の活用面・留意点

  • イチジク株枯病抵抗性台木の開発用素材として利活用できる。今後、戻し交雑体を獲得することによって、実用的な抵抗性台木の育成ならびにイチジク株枯病抵抗性の解明に寄与できる。
  • 種間交雑体は、イチジクと接ぎ木親和性を示すが、現有の種間交雑体は根の枯死による生育不良が発生するため、台木として直接利用することは困難である。
  • イヌビワの系統によりイチジクとの交雑親和性に差異が観察されるため、今後より交雑親和性の高い系統の探索が必要である。

具体的データ

 表1~2,図1

その他

  • 中課題名:高商品性ブドウ・カキ品種の育成と省力生産技術の開発
  • 中課題番号:142b0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2012年度
  • 研究担当者:薬師寺博、森田剛成(広島総技研)、軸丸祥太(広島総技研)、池上秀利(福岡農総試)、東暁史、児下佳子
  • 発表論文等:Yakushiji H. et al. (2012) Euphytica 183: 39-47.