高感度と安定性を備えたカンキツグリーニング病の診断用新規プライマーセット

要約

カンキツグリーニング病原細菌アジア型の16S rRNA遺伝子の特有領域を用いた新規プライマーセットでは、PCR法による罹病樹検定で樹体内細菌密度や混入DNAの影響を受けにくい。

  • キーワード:カンキツグリーニング病原細菌、罹病樹検定、16S rRNA遺伝子、樹体内細菌密度
  • 担当:環境保全型防除・侵入病害虫リスク評価
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・品種育成・病害虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

カンキツグリーニング病は我が国南西諸島で発生し、カンキツ栽培に深刻な被害をもたらしている。本病の根絶や発生分布域の縮小のため感染樹を速やかに伐採する必要があり、罹病樹かどうかの検定は高感度で安定した結果を得ることが重要である。現在、罹病樹検定はPCR法により行われている。しかし感染樹体内の細菌密度は季節により変動しており、低密度となる季節には安定した結果を得ることが困難である。また罹病樹検定を迅速かつ大規模に実施するためには、DNA抽出過程を省略したPCR法が期待される。そのため、極低密度の細菌であっても正確な診断が可能で、粗精製DNAからもPCR法を行うことができる高感度と安定性を備えたプライマーセットを新たに開発する。

成果の内容・特徴

  • 新規アジア型特異的プライマーセット(Las606/LSS)は、国内で発生しているカンキツグリーニング病原細菌アジア型を含む様々な細菌の16S rRNA遺伝子配列を比較し特定された本病原細菌特有の領域を用いて設計した(図1)。
  • 本プライマーセットは、Las606 (5′- GGA GAG GTG AGT GGA ATT CCG A -3′)及びLSS (5′- ACC CAA CAT CTA GGT AAA AAC C -3′)から成る。
  • 本プライマーセットを用いて国内の感染樹由来DNAを鋳型にPCRを行うと、極低濃度の鋳型DNAからも高感度に増幅断片が得られることから(表)、樹体内の菌密度が低くなる季節の樹体であっても正確に検定することができる。
  • 本プライマーセットを用いると、粗精製鋳型DNAに含まれる種々の不純物(有機物、鋳型に混在する植物宿主DNA、環境微生物などのゲノムDNA)の混入に対して、検定感度に影響を受けにくいことから(表)、不純物が混在する粗抽出DNAに対しても検定することができる。
  • 現地罹病樹に対し本プライマーセットを用いた罹病樹検定を行うと、樹体内菌密度の季節変動の影響を受けにくい(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 本病の分布域の縮小および根絶地での再発生・新規侵入警戒を行う際に、本プライマーセットを用いたPCR法検定により菌密度の季節変動の影響を受けにくく、樹体内細菌密度の低いサンプルであっても罹病樹検定が行える。
  • 本プライマーセットを用いたPCR法検定により、本病原細菌以外のDNAや有機物が多量に混入しているような粗精製DNAであってもこれまでと同等な診断が行えるため、DNA抽出過程を省略した罹病樹検定が可能である。

具体的データ

 図1~2,表

その他

  • 中課題名:侵入病害虫等の被害リスク評価技術の開発および診断・発生予察技術の高度化
  • 中課題番号:152e0
  • 予算区分:交付金・実用技術開発事業
  • 研究期間:2011年度~2012年度
  • 研究担当者:藤川貴史、宮田伸一、岩波徹
  • 発表論文等:Fujikawa and Iwanami (2012) Molecular and Cellular Probes, 26:194-197.