昆虫ウイルス感染力増強物質の特定と遺伝子解析

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

シロモンヤガ顆粒病ウイルスは、複数のヤガ科幼虫において核多角体病ウイルスの感染力を増強する作用を示す。感染力増強物質は、顆粒病ウイルスゲノム上の遺伝子にコードされる898アミノ酸からなるタンパク質である。

  • 担当:農業研究センター・病害虫防除部・虫害研究室
  • 連絡先:0298-38-8838
  • 部会名:生産環境
  • 専門:作物虫害
  • 対象:昆虫類
  • 分類:研究

背景・ねらい

核多角体病ウイルス(NPV)は、総合的害虫管理の素材として注目されており多種類の鱗翅目害虫から分離されているが、生物農薬としての殺虫効果の安定性 や生産コストの問題から、実用化に至った例はごく一部に過ぎない。害虫防除におけるNPVの実用性を高めるためには、少ない施用量で安定した殺虫効果が得 られるようなウイルス製剤の開発が必要であり、感染力の増強はそのキーポイントである。

成果の内容・特徴

  • ヨトウガ、オオタバコガ、アワヨトウ等のヤガ科害虫の天敵ウイルス(NPV)にシロモンヤガの顆粒病ウイルス(GV)を添加してそれぞれの幼虫に経口接種すると、NPV単独接種に比べて、NPV感染率が著しく上昇する(表1、図1)。国内で分離されたGVの中で、このような感染力増強作用が認められているのはシロモンヤガGVのみである。
  • ゲル濾過とイオン交換クロマトグラフィーでGVの顆粒体から分離・精製したタンパク質の生物検定を行い、分子量約108KDaのタンパク質(図2矢印)を感染力増強作用の活性成分(感染力増強物質)として特定した。
  • 遺伝子解析ならびに感染力増強物質の内部アミノ酸配列の解析により、感染力増強物質がシロモンヤガGVゲノム上に存在する2694塩基対の遺伝子にコードされるアミノ酸898残基からなるタンパク質(図3)であることを明らかにした。

成果の活用面・留意点

  • 感染力増強物質の遺伝子産物は、NPV殺虫剤の添加剤としての活用が期待できる。
  • ハスモンヨトウでは増強活性が認められないことから、作用には宿主特異性があると考えられる。感染力増強活性を害虫ーウイルスの組み合わせ、発育ステージ毎に明らかにするとともに、感染力増強物質の低コスト生産技術を開発する必要がある。

具体的データ

表1:シロモンヤガGVによる感染力増強作用が確認された宿主 とNPV
表1:シロモンヤガGVによる感染力増強作用が確認された宿主 とNPV

 

図1:GV顆粒体アルカリ可溶性タンパク質添加によるシロモンヤガ幼虫のNPV感染率の上昇(シロモンヤガNPV(三角型株)を5齢幼虫に経口接種,NPV接種量:5.3×104 多角体/個体)
図1:GV顆粒体アルカリ可溶性タンパク質添加によるシロモンヤガ幼虫のNPV感染率の上昇(シロモンヤガNPV(三角型株)を5齢幼虫に経口接種,NPV接種量:5.3×104 多角体/個体)

 

図2:ゲル濾過法によるGV顆粒体のアルカリ可溶性タンパク質の分離(レーンM:分子量マーカ-;レーン1:濾過前のサンプル;レーン2~7:各ピークの溶出液;矢印:感染力増強物質)
図2:ゲル濾過法によるGV顆粒体のアルカリ可溶性タンパク質の分離(レーンM:分子量マーカ-;レーン1:濾過前のサンプル;レーン2~7:各ピークの溶出液;矢印:感染力増強物質)

 

図3:感染力増強物質のアミノ酸配列
図3:感染力増強物質のアミノ酸配列

 

その他

  • 研究課題名:顆粒病ウイルスの感染力増強遺伝子の利用
  • 予算区分 :バイオテクノロジー先端技術開発研究 「昆虫機能」
  • 研究期間 :平成11年度(平成5~11年)