耐冷性、いもち病抵抗性に優れ、多収の水稲新品種「夢の舞」

要約

水稲「夢の舞」は寒冷地南部では早生に属し、多収で良食味である。耐冷性、いもち病抵抗性が強いため、中山間部の稲作の振興に資することが期待できる。

  • キーワード:イネ、耐冷性、多収、直播、低コスト、夢の舞
  • 担当:作物開発・利用・水稲品種開発・利用
  • 代表連絡先:電話 025-523-4131
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・作物開発研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

現在、主食用米の国内需要量は減少しているが、外食用の業務用米の需要は増加しており、特に、低価格の業務用米の需要が増加している。農業経営者の所得を確保しつつ、こうした需要に応えるには、多収で良食味の水稲品種が必要である。一方、中山間部では一戸の農家の経営規模が小さく、稲作農家の高齢化に伴い、離農が増加しつつある。こうした中山間部の稲作振興を図るためにも、早生で、耐冷性、いもち病抵抗性に優れる多収、良食味の品種が望まれている。

成果の内容・特徴

  • 「夢の舞」は、いもち病耐病性、耐冷性に優れた早生の良食味品種の育成を目標として、「東北160号(後の「こいむすび」)」と「収6084」の交配後代から育成された品種である。
  • 出穂・成熟期は「ひとめぼれ」よりやや遅く、育成地では“早生の晩”に属する(表1)。
  • 「ひとめぼれ」と比較して、稈長はやや短く、穂長は同程度で、穂数はやや少なく、草型は“中間型”である。耐倒伏性は「ひとめぼれ」より強い“強”で、収量性は、標肥栽培では「ひとめぼれ」と同程度であるが、多肥栽培では「ひとめぼれ」より多収である。湛水直播栽培における収量性及び苗立ち率は、「はえぬき」と同等であり、「あきたこまち」に比べて多収であるので、湛水直播栽培が可能である(表1、表2)。
  • 玄米千粒重は約23gで、「ひとめぼれ」並である。玄米の外観品質は「ひとめぼれ」と同等で、“中の上”と判定される。食味は「ひとめぼれ」と同等で“上の下”である(表1)。
  • いもち病真性抵抗性遺伝子はPiiと推定され、圃場抵抗性は、葉いもち、穂いもちともに“やや強”である。障害型耐冷性は“極強”、穂発芽性は“やや難”である(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 島根県の山間部にある農業法人において10ha程度の作付けが計画されている。
  • いもち病抵抗性、耐冷性に優れることから中山間部での栽培が可能である。
  • 適応地域は「ひとめぼれ」等の熟期の作付が可能な東北中南部、北陸および関東以西である。
  • 耐倒伏性は“強”であるが、極端な多肥栽培では倒伏のおそれがあり、タンパク質含有量の増加による食味低下を招くため、地力に合わせた適切な肥培管理を行う。
  • 白葉枯病にやや弱いため、常発地での栽培には注意する。
  • 縞葉枯病には“罹病性”であるため、常発地での栽培には注意する。

具体的データ

表1.「夢の舞」の特性(調査地:育成地(新潟県上越市))
表2.「夢の舞」の直播適性試験(中央農研水田利用研究領域稲超多収担当)

(長岡一朗)

その他

  • 中課題名:米粉等加工用・業務用水稲品種の育成及び米の未利用成分利用技術の開発
  • 中課題番号:112a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:1998~2011年度
  • 研究担当者:三浦清之、笹原英樹、重宗明子、長岡一朗、上原泰樹、後藤明俊、太田久稔、清水博之、小牧有三、大槻寛