小規模分散圃場における牛の放牧履歴集計プログラム「GRT」

要約

牛の移動等を記録した野帳から、牧区別、月別、個体(牛)別の放牧履歴を集計するプログラムである。牧区別・月別の放牧頭数及び牧養力、個体別の放牧履歴の把握が可能になり、牧養力向上に向けた草種選定など放牧向け草地管理指針の策定等に活用できる。

  • キーワード:牛、放牧、放牧履歴、牧養力、草地管理
  • 担当:経営管理システム・開発技術評価
  • 代表連絡先:電話 029-838-8481
  • 研究所名:中央農業総合研究センター・農業経営研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

水田の有効活用と家畜飼料の自給率向上を図るため、農地の畜産利用が推進されるなかで、中山間地域等では水田放牧が増加している。家畜の放牧飼養にあたっては、可食草量の充実と放牧期間中の安定供給が重要な課題であり、普及指導機関や研究機関では、地域や立地条件に応じた草種の選定など放牧向け草地管理指針の策定が期待されている。また、感染症や事故発生のリスク低減対策も重要な課題である。このため、草種や立地条件の異なる牧区(圃場)ごとの季節別の牧養力の把握や、疾病等が発生した場合の原因究明のため個体(牛)ごとの放牧履歴の把握が必要になる。
しかし、営農現場では多数の小規模水田圃場等を対象に放牧が行われ、各圃場(牧区)の牛の入退牧、牧区間の牛の移動は頻繁である(表1)。このため、牧区別の放牧履歴の把握は煩雑で困難な作業を伴う。そこで、牛の移動等を記録した簡易な野帳から、牧区別、月別、個体別に放牧履歴を集計できるプログラム「GRT(Grazing Record Tabulator)」を開発する。

成果の内容・特徴

  • GRTは、Microsoft Excel(Version 2007以降)のアドインツールであり、牛の移動日、移動元圃場、移動先圃場、移動頭数、個体名を記した野帳から、これらの情報を野帳の転記シート(図1)に入力することにより、牧区別、個体別の放牧履歴を集計・処理し、表示する(図2、図3)。
  • 野帳情報の入力から集計までの作業時間は、放牧牛27頭、17牧区、移動回数93回のケースで1時間程度であり、牧区別・月別等の煩雑な集計作業の負担が著しく軽減される。
  • 月別放牧実績(図3)の集計結果を用いて、草種や立地条件の異なる牧区の月別牧養力(面積当たり放牧延べ頭数)の把握が可能になる。それをもとに、牧養力向上に向けた草種選定や排水改善等の基盤整備、放牧期間を通した牧草の安定供給と放牧期間の延長に有効な草種の提示等、放牧向け草地管理指針の策定等に利用できる。
  • 個体ごとの放牧履歴(いつ、どの牧区で、どの個体と一緒に放牧されていたか等)が把握でき(集計シートの掲載省略)、疾病等が発生した場合の原因究明等に利用できる。

成果の活用面・留意点

  • 小規模移動放牧の行われている地域等において、生産者が牛の移動を野帳等に記録し、普及指導機関や研究機関がGRTを使って放牧履歴の集計・分析を行い、それを基に放牧管理充実に向けた対応を協議する等、相互のコミュニケーションツールとして活用が期待される。
  • 畜産経営においては、牛の牧区移動の履歴管理や草地管理計画の策定、また、水田放牧(水田活用の直接支払交付金)に関わる実績報告書の作成に活用できる。
  • 「GRT」および「放牧履歴集計プログラム操作・活用マニュアル」は、「水田放牧の手引き(改訂版)」のWebサイトから取得できる。

具体的データ

図1~3,表1

その他

  • 中課題名:新技術の経営的評価と技術開発の方向及び課題の提示
  • 中課題整理番号:114a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2011~2014年度
  • 研究担当者:千田雅之
  • 発表論文等:農研機構(2015)「水田放牧の手引き(改訂版)」(2015年3月公開予定)