グルタチオンを利用したグルテンフリー米粉パンの製造基盤技術

要約

米粉にグルタチオンと水を添加して混合し、乾燥酵母と砂糖を加えて発酵させるだけで、グルテンや増粘剤の添加をせずに生地を膨らませることができる。市販の米粉を原料に100%米粉パンをつくるための基盤技術である。

  • キーワード:米粉パン、グルタチオン、グルテンフリー
  • 担当:食総研・食品素材科学研究領域・蛋白質素材ユニット
  • 代表連絡先:電話029-838-8051
  • 区分:食品
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

食料自給率の低下が、農業・食品分野で克服すべき喫緊の課題のひとつに挙げられている。1965年には生産額ベースで86%、カロリーベースで73%あった食料自給率は長期的な漸減傾向を示し、2009年にはそれぞれ70%、40%にまで低下している。米は国内で自給可能な数少ない穀物のひとつであるため、米粉を原料としたパンの開発は食料自給率を高めるための切り札として期待される。また、小麦アレルギーやセリアック病など、小麦粉の摂取に起因する疾患の存在からグルテンフリー食品の開発が求められている。

そこで本研究では、グルテンや小麦粉を原料に用いずに米粉パンを製造するための基盤技術の開発を目的とする。

成果の内容・特徴

  • 米粉に水とグルタチオンを加えて混合し、数時間から一晩室温で放置する。これに乾燥酵母と砂糖を添加して発酵させると、グルタチオンを添加しない米粉生地は発酵ガスを保持することができず膨らまない(図1A)が、グルタチオンを添加した生地は膨らむ(B)。焼成したパンを比べると、グルタチオンを添加した米粉パンは発酵時の膨らみを維持している(C、D)。
  • 生地を膨らませるのに必要なグルタチオンの量は、280gの米粉に対して0.75g程度であり、この条件でパンの容積比は無添加に比べ2.4倍になる(図2)。
  • パンの構造を電子顕微鏡で観察すると(図3)、グルタチオンを添加した米粉パンは、小麦粉パンと同様の多孔構造をもつ。このことから、発酵により生じた炭酸ガスを、生地が保持する働きをもつことがわかる (×30倍) 。より微細な構造(×1000)を観察すると、小麦粉パンやグルタチオンを添加しない米粉パンでみられる澱粉粒の構造が消失し、滑らかな表面構造をもつ。また、グルタチオンを添加した米粉パンでは発酵中の生地が卵白を泡立てたメレンゲのような性状であり、小麦粉パンの生地とは状態が異なる。これらのことから、グルテンの作用がなくても、炭酸ガスを保持する構造を米粉生地にもたせることができる。

成果の活用面・留意点

  • 本研究では米粉パン生地を膨化するための基盤技術を開発した。実用化には処方や工程の改良により味や香り、食感等を向上させる必要がある。
  • 本研究で用いた純度の高いグルタチオンは米国では食品添加物として取り扱われるが、日本では医薬品に区分される。そこで、国内で実用化するには、精製したグルタチオンと同等の製パン効果をもつ代替物の開発が必要である。
  • 小麦粉やグルテンを原料としたパンは食塩の添加を要するが、グルタチオン添加米粉パンは食塩の添加を必要としないため、減塩食品への応用が期待される。

 具体的データ

図1 米粉パンでの無添加条件とグルタチオン 添加の比較。生地(上段)とパン断面(下段)図2 グルタチオン添加による パンの膨潤

図3 無添加米粉パン、グルタチオン添加米粉パン、小麦粉パンの微細構造の比較

その他

  • 研究課題名:先端技術を活用した食品の加工利用技術の開発
  • 中課題整理番号:313d
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2009~2010年度
  • 研究担当者:矢野裕之
  • 発表論文等:Yano H (2010) J. Agr. Food Chem. 58(13):7949-7954