BSE異常プリオン蛋白質の超高感度検出技術の開発と体内分布

要約

デキストラン硫酸化合物は牛海綿状脳症(BSE)の異常プリオン蛋白質(PrPSc)の試験管内増幅反応を著しく促進する。本技術を使った超高感度検出法により、発症末期牛では広範な末梢組織から極微量のPrPScが検出される。

  • キーワード:牛、BSE、異常プリオン蛋白質、PMCA、デキストラン硫酸化合物
  • 担当:動物衛生研・プリオン病研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-7708
  • 区分:動物衛生
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

正常動物の脳乳剤とプリオンに感染した動物の脳乳剤を試験管内で混合し、超音波処理・攪拌培養を繰り返すことによってPrPScを増幅するProtein Misfolding Cyclic Amplification (PMCA)法には、BSE PrPScを十分に増幅できないという問題がある。本研究では、高効率なBSE PrPSc増幅法を確立し、BSE PrPScの超高感度検出技術を開発するとともに、発症末期牛におけるPrPScの体内分布を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • ポリアニオンであるデキストラン硫酸化合物をPMCA反応液に添加して増幅を行うと、PrPScの増幅効率が著しく高まる。この効果はデキストラン化合物の極性に依存しており、ポリカチオンであるDiethylaminoethyl-デキストラン化合物あるいはデキストラン単体では促進効果は認められない。
  • デキストラン硫酸カリウムをPMCA反応液に添加して増幅すると、BSE感染牛由来10%脳乳剤を106倍に希釈したサンプルからでも増幅が可能である。増幅産物をPMCA反応液で希釈し再増幅を行うと、1010倍に希釈したサンプルのうち一つからPrPScが検出できることから、検出限界は1010~1011倍にあると考えられる(図1)。
  • BSE感染脳乳剤を経口接種した牛の発症末期では、中枢、末梢神経系および副腎に加えて、骨格筋、舌筋、唾液腺、リンパ節および回盲部からPrPScが検出される(図2)。
  • 脾臓PrPScおよび脳脊髄液PrPScの分布には個体差が認められ、発症末期牛3頭のうち1頭から検出される。
  • 発症末期牛3頭とも、血液からはPrPScは検出されない。一方、経口接種発症末期牛および脳内接種未発症牛各1頭の唾液中からPrPScが検出される。

成果の活用面・留意点

  • デキストラン硫酸化合物を用いたPMCA法により、BSE感染牛由来PrPScの超高感度検出が可能になる。ウェスタンブロット法による検出感度は2回の増幅により、増幅前と比べて約1億倍に高感度化される。
  • BSE発症末期牛では、広範な組織にPrPScが分布している。骨格筋や舌筋では2回の増幅によりPrPScが初めて検出されることから、これら組織中のPrPSc量は10%感染脳乳剤を106倍に希釈したサンプルに含まれるPrPSc量よりも少ない。バイオアッセイで感染性が検出されるのは104倍希釈までであり、これら組織中に含まれるPrPSc量は感染性を示すレベル以下であると考えられる。
  • BSEでは血液や脳脊髄液よりも、唾液が診断材料として適している可能性がある。この方法は、牛を原材料とする肉骨粉など畜産副産物の安全性評価に応用可能である。

具体的データ

BSE PrPSc の増幅結果

BSE 発症末期牛におけるPrPSc の分布

その他

  • 研究課題名:プリオン病の防除技術の開発
  • 中課題整理番号:322d
  • 予算区分:委託プロ(BSE)
  • 研究期間:2008~2010年度
  • 研究担当者:村山裕一、吉岡都、舛甚賢太郎、岡田洋之、岩丸祥史、
                        今村守一、松浦裕一、福田茂夫(道総研畜試)、
                        尾上貞夫(道総研畜試)、横山隆、毛利資郎
  • 発表論文等:Murayama Y. et al. (2010) PLoS ONE, 5 (10): e13152