ウシラクトフェリンは初期軟骨分化を促進し、終末分化を阻害する

要約

マウス由来のATDC5細胞を軟骨細胞に分化誘導する過程で、ウシラクトフェリンを培養液に添加すると、細胞増殖と初期軟骨分化が促進される。一方、終末分化はラクトフェリンにより阻害される。

  • キーワード:ラクトフェリン・軟骨分化・アルカリフォスファターゼ
  • 担当:畜産草地研・畜産物機能研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-8611
  • 区分:畜産草地
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

ウシラクトフェリンには骨芽細胞による骨形成を促進し、破骨細胞による骨吸収を抑制する機能があることが明らかとなっている。一方、生体の発生段階では骨芽細胞による骨形成(膜内骨化)は頭蓋骨など一部の組織に限定されており、大部分の組織における骨形成は、一旦形成された軟骨組織が骨組織に置換されることにより行われることが明らかになっている(内軟骨性骨化)。そこで、軟骨分化の培養モデルであるATDC5細胞を用いて初期軟骨分化と肥大化軟骨の形成をともなう終末分化に対するラクトフェリンの効果を検討した。

成果の内容・特徴

  • ATDC5細胞は、マウス由来の胚性癌細胞であり、アスコルビン酸またはインスリンの添加により軟骨細胞の初期分化から終末分化までを培養系で再現することができる。軟骨分化誘導に必須の転写因子Sox9の発現は、ラクトフェリン非存在下では分化初期(分化誘導開始7日後)に一過的に認められる。一方、ウシラクトフェリンを最終濃度1μMで培養液に添加した場合、Sox9の発現が、分化後期(分化誘導開始21日後)まで持続的に認められる(図1)。Sox9により発現誘導されるII型コラーゲンの発現も、分化後期まで認められる。さらに、軟骨分化の初期段階において、ラクトフェリンは軟骨細胞の増殖を促進する(図2)。
  • 肥大化軟骨細胞のマーカーであるアグリカンの発現(アルシアンブルー染色陽性細胞)(図3)および、アルカリフォスファターゼ活性の上昇は、培養液へのラクトフェリン添加により阻害される。ラクトフェリンの阻害効果は用量依存性が認められる。また、これらの活性は、ラクトフェリンと類似の鉄結合タンパク質であるトランスフェリンには認められない。
  • Sox9は軟骨分化の増殖や初期段階を促進し、終末分化を阻害する機能が知られていることから、ラクトフェリンはSox9の発現を誘導することにより、軟骨細胞の初期分化を促進し、肥大化軟骨細胞の形成を阻害する機能を持つことが示唆される。

成果の活用面・留意点

  • ラクトフェリンが転写因子Sox9の発現を促進することを、初めて明らかにした成果である。細胞分化に関する基礎研究へ広範囲な活用が期待できる。
  • ラクトフェリンが軟骨細胞分化の制御因子として活用可能であることを示した。
  • 経口投与したラクトフェリンが軟骨形成を調節する機能を有するか否かについては、別途、検討する必要がある。

具体的データ

ATDC5 細胞の軟骨分化の過程で、ラクトフェリンはSox9 の発現 を分化後期まで持続させる

 

 

ATDC5 細胞の軟骨分化の過程で、ラクトフェリンは細胞増殖を促進する

 

 

インスリン処理による肥大 化軟骨細胞(アルシアンブルー陽 性細胞)の出現は、培養液へのラ クトフェリン添加(最終濃度1μ M)より阻害される。

その他

  • 研究課題名:プロバイオティック乳酸菌等を活用した機能性畜産物の開発
  • 中課題整理番号: 312d
  • 予算区分:科研費、基盤
  • 研究期間:2006年?2010年度
  • 研究担当者:高山喜晴、水町功子
  • 発表論文等:Takayama et al. (2010)  BioMetals,23(3):477-484