プレスリリース
放牧履歴集計プログラム「GRT」を開発

- 普及指導機関における放牧向け草地管理指針等の策定を支援 -

情報公開日:2015年4月30日 (木曜日)

ポイント

  • 牛の移動等を記録した野帳から、牧区別、月別、個体別に放牧履歴を集計可能な放牧履歴集計プログラム「GRT」を開発しました。
  • 普及指導機関や研究機関における放牧向け草地管理指針等の策定や、小規模分散圃場において移動放牧を行う経営体における牧区移動計画の策定や助成制度申請における実績報告等に活用できます。

概要

  • 農研機構は、牛の移動等を記録した野帳から、牧区(圃場)別、月別、個体(牛)別の放牧履歴を集計可能な放牧履歴集計プログラム「GRT(Grazing Record Tabulator)」を開発しました。
  • これにより、立地条件や草種の異なる牧区ごとの牧養力* の把握が可能になり、普及指導機関や研究機関において、牧養力向上に有効な対策の策定に活用できます。また、放牧期間を通した牧草の安定供給と放牧期間の延長に有効な草種の提示等、放牧向け草地管理指針等の策定に活用することができます。
  • さらに、小規模分散圃場にて移動放牧を行う経営においては、牛の牧区移動の履歴の管理や牧区移動計画の策定、また、助成制度申請に必要な実績報告書の作成に活用できます。
  • 放牧履歴集計プログラム「GRT」および「GRT操作・活用マニュアル」は、下記のWebサイトからダウンロードできます。
    http://fmrp.dc.affrc.go.jp/

※牧養力
放牧地において単位面積当たりどれくらいの家畜が養えるかを示す家畜収容力、草地の生産力を示す概念。


詳細情報

背景

水田の有効活用と家畜飼料の自給率向上を図るため、農地の畜産利用が推進されています。そのなかで小規模圃場の多い中山間地域等では、放牧等による省力的な水田利用と低コストの家畜生産の展開が期待され、その面積は増加しています。
家畜の放牧飼養にあたっては、可食草量の充実と放牧期間中の安定供給が重要な課題であり、普及指導機関や研究機関には、地域や立地条件に応じた草種の選定など放牧向け草地管理指針の策定が期待されます。また、放牧に伴う感染症や事故発生への配慮も必要になります。このため、立地条件に応じた多様な草種の季節ごとの牧養力*の把握や、疾病等が発生した場合の原因究明のため個体(牛)ごとの放牧履歴の把握が必要になります。
しかし、営農現場では、多数の小規模水田圃場やその周囲に点在する耕作放棄地を対象に放牧が行われており、各圃場(牧区)の牛の入退牧、圃場間の牛の移動は頻繁です(表1)。このため、各牧区の放牧頭数や日数の把握は煩雑で困難な作業を伴います。

研究の経緯

そこで、農研機構では、主に普及指導機関や研究機関向けに、簡易な放牧実績を記録した野帳から、牧区別、月別、個体(牛)別に放牧履歴を集計できるプログラムGRT(Grazing Record Tabulator)の開発に取り組みました。

研究の内容・意義

  • 牛の移動等を記録した野帳から、牧区別、月別、個体(牛)別に放牧履歴を集計できる「放牧履歴集計プログラムGRT」を開発しました。
  • GRTは、Microsoft Excel(Version 2007以降)のアドインツールであり、利用者は、牛の移動日、移動元圃場、移動先圃場、移動頭数、個体名を記した野帳から、これらの情報を野帳の転記シートに入力します(図1)。GRTの集計・処理により、牧区別の放牧実績(図2)、牧区別・月別の放牧頭数(図3)、個体別の放牧実績(図4)等が表示されます。
  • 牧区別集計と圃場面積から、草種や立地条件の異なる牧区ごとの牧養力の把握が可能になり、普及指導機関や研究機関において、牧養力向上に向けた草種選定や基盤整備等に活用ができます(表2)。たとえば、表2からは、排水不良牧区の牧養力が低く、圃場の排水改善が牧養力向上に必要なことが分かります。
  • 牧区別・月別の放牧頭数の集計から、牧区別に月別の牧養力(面積当たり放牧延べ頭数)を把握することができます(図5図6)。これをもとに、放牧期間を通した牧草の安定供給と放牧期間の延長に有効な草種等の把握が可能になり、普及指導機関や研究機関において、生産者に対する指導に活用できます(図5)。たとえば、図5からは、11月、12月に牧場全体の牧養力が低くなっていることが分かります。図6からは、10月から12月にE牧区の牧養力が著しく高いことが分かります。そこから放牧期間の延長をはかるためには、E牧区で利用している飼料イネの作付を拡大すること等が示唆されます。
  • 個体別の放牧履歴(いつ、どの牧区、どの個体と一緒に放牧されていたかなど)の把握・集計が可能です。これにより、個体ごとの放牧飼養日数等の把握が可能になり、個体ごとの飼養コストおよび収益試算など、経営発展に向けた営農指導等へ応用ができます。また、疾病等が発生した場合の原因究明等に利用することができます。
  • 小規模分散圃場にて移動放牧を行う経営においても、牛の牧区移動の履歴の管理や牧区移動計画の策定、また、助成制度申請に必要な実績報告書の作成(表3)に活用できます。

今後の予定・期待

小規模移動放牧の行われている地域等において、生産者が牛の移動を野帳等に記録し、普及指導機関や研究機関がGRTを使って放牧履歴の集計・分析を行い、それを基に放牧管理充実に向けた対応を協議する等、相互のコミュニケーションツールとして活用することも期待されます。普及指導機関や研究機関では、新たな草種の時期別の牧養力の把握、地域や立地条件に応じた草種の選定など放牧向け草地管理指針の策定に活かすことができます。生産者は各圃場の草地管理の充実と省力・低コスト化の可能な放牧飼養の拡充を図ることが期待されます。
今後は、利用者の意見を踏まえ改良を図り、より実用性の高いプログラムへ発展させる予定です。

用語の解説

  • ※牧養力
    • 放牧地において単位面積当たりどれくらいの家畜が養えるかを示す家畜収容力、草地の生産力を示す概念。

表1 水田等を活用した営農現場の放牧実態

牧場名
(所在地)
繁殖牛飼養
(頭)
放牧地面積
(a)
牧区数 移動頻度
(回/年)
S牧場(茨城) 75 1,160 21 141
I牧場(岡山) 30 374 17 93
M牧場(広島) 24 1,112 16 30以上
K法人(広島) 12 673 6 43
H農場(熊本) 25 800 19 62

図1

図1 野帳からの転記シート

図2

図2 牧区別の放牧実績の集計

図3

図3 牧区別・月別の放牧頭数の集計

図4

図4 個体別の放牧実績の集計

表2 牧区別の牧羊力と草種、圃場条件との関連性

牧区名 面積(m2) 放牧延べ頭数
(日頭)
牧養力
(日頭/10a)
草種 圃場条件等
A~B 7,230 889 123 イタリアンライグラス-ミレット 排水良
C1~C4 8,196 818 100 イタリアンライグラス-野草  
C5~C8 7,527 498 66 バヒアグラス  
D 5,419 196 36 イタリアン(採草)-ミレット 排水不良
E 1,051 114 108 飼料イネ(たちすずか)  
F 7,854 318 40 イタリアン-野草 排水不良

図5

図5 牧区別・月別放牧実績

図6

図6 牧区別・月別牧養力

表3 牧区(圃場)別の放牧管理と放牧実績(耕畜連携助成への実績報告書式例)

牧区名 牧草播種 施肥 放牧実績
播種日 草種・播種量 放牧開始 放牧終了 放牧日数 放牧延べ頭数
A 2011/10/15、
2012/7/20
イタリアン3kg/10a、ミレット3.5kg/10a 10/15:40kg
3/5:20kg
7/20:30kg
2012/4/28 2012/11/7 81 144
B1 2012/4/1 2012/11/10 207 691
B4 2012/4/1 2012/9/23 34 54
C1 2011/10/20 イタリアン3kg 10/15:40kg、
3/5:20kg
2012/6/3 2012/11/24 46 82
C2 2012/4/27 2012/12/16 102 216
C3 2012/4/27 2012/10/6 74 123
C4 2012/4/1 2012/12/6 136 397
C5 2011/5/20、
2011/10/30
バヒアグラス3kg、イタリアン3kg 10/30:30kg 2012/4/15 2012/4/27 12 24
C6 2012/5/5 2012/12/11 101 215
C7 2012/5/22 2012/11/7 59 140
C8 2012/7/15 2012/11/13 67 119
D1 2011/10/20、
2012/7/22
イタリアン3kg、
ミレット3.5kg
10/15:40kg、
3/5:20kg、
7/22:30kg
2012/9/30 2012/10/6 6 12
D2 2012/9/18 2012/9/30 12 24
D3 2012/9/5 2012/11/7 44 88
D4 2012/8/18 2012/10/25 36 72
E 6/20田植え 飼料イネ 6/15:50kg、
9/10:10kg
2012/10/12 2012/12/8 57 114
F 2011/10/30 イタリアン3kg 10/30:20kg 2012/5/9 2012/10/15 159 318

※栽培関係の情報を追記