プレスリリース
カンキツ類の重要病害カンキツグリーニング病を迅速で簡便に検出する方法

- 本病の国内根絶・蔓延阻止を支援する技術革新 -

情報公開日:2014年12月 3日 (水曜日)

ポイント

・カンキツ類の重要病害であるカンキツグリーニング病を、従来法よりも迅速・簡便かつ低コストで診断できる方法を開発しました。

・本法を用いることで多数の樹体について感染の有無を容易に診断できるようになり、本病の根絶や蔓延阻止に貢献が期待されます。

概要

農研機構はカンキツグリーニング病1)を迅速で簡便に検出する方法を開発しました。
これまで、本病感染の有無を検定するためには、対象樹からDNAを抽出した上で精製しなければならないため、多数の樹体を検定するには時間とコストがかかるという問題がありました。そこで、従来の検定法であるPCR法2)より迅速・簡便に感染樹を検出できる、DNA抽出が不要なダイレクトPCR法2)を適用した検定法を開発しました。
本法を用いると多数の樹体について感染の有無を容易に診断できるようになると考えられます。この結果、本病の根絶や蔓延阻止に大きく貢献できるものと期待されます。

予算:
・運営費交付金
・農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業「グリーニング病根絶事業を支援する高精度診断・最小薬剤使用・統計的手法の開発」(H23-25)


詳細情報

開発の社会的背景と研究の経緯

カンキツ類の重要病害であるカンキツグリーニング病は、国内では南西諸島で発生しており、深刻な被害をもたらしています。本病の発生域を縮小し、根絶するためには感染樹を速やかに伐採する必要があるため、迅速かつ大規模に感染樹を特定しなければなりません。しかし従来の検定法では多大な時間と労力をかける必要がありました。

そこで、検出感度を高めつつも迅速、簡便かつ低コストでカンキツグリーニング病を診断できる試料調製法及びダイレクトPCR法を適用した新しい方法を開発しました。

研究の内容・意義

研究の内容

1.これまで国内外で使われている本病検定用プライマーよりも高感度で、かつ高精度に検出できるPCRプライマーを開発しました。

1-1.本病原細菌に特有の遺伝子配列を探索し、この配列を基に新しいPCRプライマーを設計しました。従来のプライマーを用いた場合と比較を行ったところ、感度や特異性に優れていました。また、夾(きょう)雑物(ざつぶつ)3)を含むDNA溶液を鋳型にした場合でも高感度に核酸増幅が認められました(図1)。

2.ダイレクトPCR法を適用した迅速かつ簡便な本病検定法を開発しました(図2)。

2-1.検定樹体の葉より切り出した中肋部(ちゅうろくぶ)4)を、細断後に市販のミニホモジナイザーチューブのカラム上で滅菌水とともに軽くすり潰し遠心ろ過します。次に遠心ろ過したカラム通過画分の沈殿物を滅菌水に再懸濁し回収します。この粗抽出液中にカンキツグリーニング病原細菌が含まれており、これを鋳型とし、新しく開発したプライマーを用いたダイレクトPCR法を行います。

2-2.本法を用いることで、従来法(精製したDNAを鋳型とし、従来使用されているプライマーを用いたPCR法)より明瞭に、本病の感染を診断できました(図3)。

2-3.本法はDNA精製過程を要さないため、少ない作業工程で容易に試料を調製できます。このため、多数の検体を扱う場合は、従来法に比べ大幅に作業時間が短縮し、省力化します。また、有機溶媒を用いずに試料を調製できるため、従来法に比べて、より安全であり、特殊な機器・設備も必要としません(表1)。

2-4.本法は、従来法と同様にエタノール等による前処理を施した葉からも試料調製ができ、従来通りにサンプリングや保存・運搬した試料にも適用できます。

研究の意義

カンキツグリーニング病がカンキツ産地に侵入すると甚大な被害を及ぼすことから、本病が発生している南西諸島では、根絶又は蔓延阻止のために感染樹は速やかに伐採する必要があります。感染の有無はPCR法等によって診断されていますが、多数の樹体からDNAを抽出し精製するには時間と労力がかかる上、試薬等にかかるコストや、有機溶媒の使用等による安全上の問題もありました。本研究によって開発した検定法を利用することにより、検査対象樹から簡便かつ迅速に試料を調製することができ、高感度に診断することができます。また、コストや安全性でも従来法に比べて大きく改善されています。このことから、本法を用いることで、前処理の時間短縮や検出感度の向上により多数の樹体について感染の有無を容易に診断できるようになり、本病の根絶や蔓延阻止に大きく貢献できると期待されます。

今後の予定・期待

本法を用いることでカンキツグリーニング病感染樹であるかを迅速かつ簡便に診断できることから、本病発生地において多数の樹体を容易に検定することが可能となります。この結果、本病感染樹を早期に伐採することができ、本病の根絶や蔓延阻止といった対策に大きく貢献できると考えられます。また本法は国外でも有効な検定法として利用できると期待できます。

さらに本法は他の植物病害の検定法としても利用できる可能性があるため、今後さらに改良を重ね、様々な病害についても有効な方法であることを検証していく予定です。

用語の解説

1)カンキツグリーニング病

世界中のカンキツ主要栽培地域で猛威をふるっている難防除病害であり、本病に罹ったカンキツ樹では果実の収穫量減少や生育不良、品質の悪化が見られ、樹体は発育不良により速やかに枯死します。本病はミカンキジラミという昆虫によって媒介されるほか、人為的な接ぎ木によっても媒介されます。日本では奄美群島(鹿児島県)以南(奄美大島及び喜界島を除く。)の南西諸島で発生が確認されています。

2)PCR法・ダイレクトPCR法

目的遺伝子に特異的な部分と結合する合成DNA断片(プライマー)と、それを足がかりとしてDNA断片を伸長させる酵素(DNAポリメラーゼ)を用いて、試料中の目的の遺伝子を選択的に増幅させる方法で、各種診断技術として使われています。PCR法では、精製したDNA溶液を試料として用います。一方、ダイレクトPCR法では、検体やその抽出液を精製せずに用います。

3)夾雑物

試料に含まれる種々雑多なものの総称で、PCR法においてはDNA溶液に含まれる塩や有機物が該当し、DNAの増幅に悪影響を及ぼすことが知られています。

4)中肋部

葉の葉脈のうち、葉の先端から基部までの葉の中央にある太い部分。養分を輸送する師部を含み、師部に局在するカンキツグリーニング病原菌が高密度に存在します。

本成果の発表論文

論題:Convenient detection of the citrus greening (huanglongbing) bacterium ‘Candidatus Liberibacter asiaticus’by direct PCR from the midrib extract (葉中肋部抽出液のダイレクトPCR法によるカンキツグリーニング病原細菌Candidatus Liberibacter asiaticusの簡便な検出)
掲載紙: PLOS ONE 8, e57011 (2013)
著者: 藤川貴史、宮田伸一、岩波徹 

論題:Sensitive and robust detection of citrus greening (huanglongbing) bacterium “Candidatus Liberibacter asiaticus” by DNA amplification with new 16S rDNA-specific primers  (新規16S rDNA特異的プライマーを用いたDNA増幅によるカンキツグリーニング病原細菌Candidatus Liberibacter asiaticusの高感度で堅牢な検出)
掲載紙: Molecular and Cellular Probes 26(5), 194-197 (2012)
著者: 藤川貴史、岩波徹

図表

 図1

図1.本病検定用プライマーを用いた核酸増幅結果の比較
それぞれのPCR反応では鋳型として精製されたDNA溶液に加え(左端レーン)、各有機物を夾雑物として濃度の違う8種類の有機物を加えたDNA溶液についても行いました。本研究で開発したプライマー(Las606/LSS)は夾雑物を含むDNA溶液を鋳型とした場合でも高感度に核酸増幅が認められましたが、従来使用されているプライマー(OI1/OI2c、A2/J5、またはMHO353/MHO354)では夾雑物を含んだDNA溶液に対して核酸増幅が不十分でした。


図2

 図2.本病検定用ダイレクトPCR法のスキーム

検査する葉の中肋部を細断した試料を市販のミニホモジナイザーチューブを用いて磨砕及び遠心を行い(写真)、沈殿物を滅菌水で懸濁したものを鋳型としてPCRを行うことによって本病の診断が可能です。

図3

図3.本法(高感度プライマーを用いたダイレクトPCR法)と従来法とのPCR法診断結果の比較
本法を用いることで感染樹の診断を高感度に行うことができました。


表1.本法と従来法との感染樹検定にかかる比較

図4