プレスリリース
「土壌攪拌(代かき)による放射性物質低減技術の実施作業の手引き」を公表

- 表土削り取りや反転耕が適用できないほ場に効果的! -

情報公開日:2016年1月20日 (水曜日)

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ポイント

  • 水田ほ場の土壌中の放射性物質を低減させる除染方法として土壌攪拌(代かき)による放射性物質低減技術を改良し、実務的な作業手引きを作成しました。
  • この技術は、表土削り取り1や反転耕2による除染が適用できないほ場に効果的です。
  • この手引きでは、具体的な除染作業内容と手順、除染後の水稲栽培の留意点について解説しています。

概要

 農研機構及び農環研は、関係機関(DOWAエコシステム株式会社、信州大学工学部、太平洋セメント株式会社及び福島県農業総合センター)と共同で、水田ほ場の土壌中の放射性物質を効果的に低減する除染方法として土壌攪拌(代かき)による放射性物質低減技術を改良し手引きを作成しました。この技術は、持ち出す土量が少量のため、作土層が薄い、又は下層に礫(れき)が存在するほ場や原発事故後に表土を耕起したほ場など、放射性物質を除去するための表土削り取りや反転耕による除染が難しいほ場に効果的です。今般公表する手引きでは、中山間地域の棚田などの小規模なものから平場の30a標準区画などの比較的規模が大きなものまでを対象として、たん水後に表層土壌攪拌(代かき)を行い、高濃度の放射性物質を含む微細土壌を効果的に取り出して搬出用の袋(フレキシブルコンテナ)に格納する一連工程の具体的な作業方法について解説しています。さらに、除染後の水稲栽培の留意点についても解説しています。

この手引きは、農研機構農村工学研究所のwebサイトに掲載しましたので、御覧ください。


詳細情報

背景と経緯

東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴って生じた水田ほ場の放射能汚染に対処する有効な除染方法として表土削り取り※1や反転耕※2が示されています。しかしながら、原発事故後に耕耘して放射性物質濃度が高い表層土壌を作土層中に混合したほ場では、これらの除染方法は有効ではありません。また、作土層が薄く直下に礫(れき)が存在するほ場や下層に砂質土壌が存在するほ場にこれらの除染方法を適用すると、肥沃な作土が失われて除染後の作物生産には好ましくありません。こうした条件での除染方法として、「水による土壌攪拌・除去※3」(農林水産省:農地土壌の放射性物質除去技術(除染技術)作業の手引き第1版平成24年3月)が示されています。

今回、この「水による土壌攪拌・除去」による除染方法の作業効率を向上させるため、土壌の攪拌・回収工程にプラントによる凝集沈殿処理及び簡易的な袋詰脱水工法を導入するとともに、工程全体のシステム化を行う改良を行いました。さらに、この改良した除染方法を現地で普及させるために作業の手引きを取りまとめました。

内容・意義

この手引きは、国や関係する市町村が事業として行う除染作業に対して、改良した本除染方法が普及し正しく活用されることを目的に、除染作業の手順と除染後の水稲栽培の留意点について解説しています。除染対象とするほ場は、中山間部等の小規模なものから平場に立地する大規模までです。

小規模水田の放射性物質低減技術は、水田をたん水し分散剤を施用して土粒子を分散させた後、ほ場全体の土壌攪拌(代かき)と懸濁水(泥水)の排水を繰り返すことで、水中に分散した放射性物質を多く含む微細土壌をほ場から除去する方法です(図1~3)。排水した懸濁水をフィルタープレスや簡易袋詰(図4)で脱水して微細土壌のみを取り出し、搬出用の袋に詰めて搬出します。この技術は、撹拌後の土壌懸濁液を速やかにほ場全体から排水する必要があるため、数a規模の小規模水田が対象です。自然沈降分級※4を利用しているためシルト※5程度の粒径以下の微細な土壌を分離でき、安価に実施可能です(約95万円/10a)。大規模水田に適用する場合はほ場を小規模に区切って行う必要があります。

平成25年度に福島県伊達市で実施した実証試験では、除染作業により土壌高さ1mの空間線量率は30.1%(除染前:1.77 μSv/hr、除染後:1.24 μSv/hr)、作土0~15cmの放射性セシウム濃度は61.9%(除染前:4,990 Bq/kg、除染後:1,900 Bq/kg)低減しました。

大規模水田を対象とする放射性物質低減技術では、対象とする水田をたん水させた後、大型のトラクターの後部に装着した土壌攪拌器(ハロー)と泥土吸引部(樋(とい))を用いて、トラクターの走行中に土壌を攪拌し直ちに泥水を連続回収します(図5~7)。回収した泥水については、ほ場外に設置した機材で分級・凝集沈殿を行い放射性物質を多く含む微細土壌を分離します。分離された微細土壌は、脱水後に搬出用の袋に詰めて搬出します。この技術は、ほ場全体からの速やかな排水作業を要しないため大規模面積に適用できます。作業日数は10aあたり約1~2日です。平成24年7月に福島県飯舘村で実施した実証試験では、ほ場内をトラクターが3回走行した場合、土壌高さ1mの空間線量率は25.3%(除染前:2.45μSv/hr、除染後:1.83μSv/hr)、作土0~15cmの放射性セシウム濃度は16.2%(除染前:7,602 Bq/kg、除染後:6,369Bq/kg)低減しました。直接作業コストは、実証試験実績から概算すると約145万円/10a(30aほ場を20区画作業する規模を想定)です。

手引きでは除染後の水稲栽培の留意点として、(1) 作期の決定と品種選定、(2) 施肥量と放射性物質の吸収抑制対策、(3) 栽培・水管理について解説しています。この除染技術を適用すると、粘土などの細粒土壌が選択的に除去されるため土壌の肥沃度が低下し、除染後に水稲を栽培すると減収します。したがって、除染直後の窒素施肥量は、慣行より多くする必要があります。また、放射性セシウムの吸収抑制効果を有するカリウムも除去される場合があるので、除染直後のカリ施肥量は、少なくとも慣行施用量が必要となります。さらに、(1) 除染当年のカリ上乗せ施用は吸収抑制効果が認められること、(2) ゼオライト資材はカリ成分を含むため、この除染技術を実施したほ場における吸収抑制効果が認められること、(3) (2)の効果は持続すること(図8)、などを解説しています。

 

今後の予定・期待

この手引きは、農研機構農村工学研究所のwebサイトに掲載します。なお、この手引きの一部工程を利用した「土壌攪拌~沈降分級~表土削り取り」の実証事業が福島市で行われています。これまで表土削り取りなどの既存の除染技術の適用が困難であったほ場で本手引きが活用されれば、安心・安全な食料生産や地域の営農再開が推進されることが期待されます。

用語の解説

  • 1 放射性物質が吸着された表土を削り取りにより除去する手法です。
  • 2 プラウ耕により、放射性物質で汚染された表層土と下層土を反転させる手法です。
  • 3 水田の表層土壌を水により攪拌した後、濁水を沈砂地で固液分離して放射性セシウムを大量に含有する土壌のみを排出する手法です。
  • 4 水田を撹拌して土粒子を分散後、放置すると沈降速度の違いによって粒径の大きな粒子が速く沈み、小さな粒子はゆっくり沈んで自然に粒径別に分級される現象です。
  • 5 粒径が2~20μm程度の土粒子のことです。

 

 

図1

 

図2

 

図3

 

図4

 

図5

 

図6

 図7