花き研究所

キクの花びらが白くなるしくみ

担当者名:大宮あけみ・岸本早苗

研究テーマについて

花の色のもとは

花の色はアントシアニンやカロテノイドと呼ばれる色素が細胞にたまることで作られます。アントシアニンがたまると赤や紫、カロテノイドがたまると黄色になります。どちらも無い場合は白、そして両方ある場合は橙色や褐色になります。植物によってそれぞれ個性的な配合で色素が作られ、様々な花の色ができます。

キクの花びらにおけるカロテノイドの合成と分解

キクの黄色い花びらと白い花びらの違いはカロテノイドをたくさん持っているか持っていないかの違いです。私たちはこのような花の色の違いがどのようにして生まれるのかを遺伝子レベルで明らかにしました。

まずはじめにカロテノイドが合成される量に違いがないかどうかを調べました。カロテノイドは炭素が40個繋がった化合物で、炭素が5個の化合物から出発し、たくさんのステップを経て合成されます。それらのステップの反応は酵素の働きで触媒されます。カロテノイドの合成に関わる13種類の酵素遺伝子をキク花弁からとりだして、そのひとつひとつについて花びらでどれくらい発現しているのかを調べました。すると、 どの遺伝子も白い花びらでも黄色の花びらと同じように働いていました。どうも白い花びらでもカロテノイドを作っているようです。

次に白い花びらと黄色い花びらで働いている遺伝子を比べてみたところ、カロテノイドを分解する酵素の遺伝子が白い花びらでは働いているけれど、黄色の花びらでは働いていないことがわかりました。遺伝子組換えで、カロテノイドを分解する酵素が白い花びらで働かないようにすると、黄色い花びらのキクができました(写真)。

このことから、キクの白い花びらでは、カロテノイドを作っているけれど、酵素によって分解されてしまうために白くなることがわかりました。

どうしていったん作ったものを分解してしまうのか、その理由はまだわかりません。野生のキクは黄色のキクから白いキクが生まれたと考えられています。白く なることでキクにとってなにか良いことがあるために(例えば虫を呼びやすいなど)、進化の過程でカロテノイドを分解する能力がそなわったのかもしれません。

他の植物では・・

白花のキク品種セイマリン
白花のキク品種セイマリン

遺伝子組換えで花びらの色が 黄色になったセイマリン
遺伝子組換えで花びらの
色が黄色になったセイマリン

植物の中にはマリーゴールドやヒマワリなどのように白い花びらを持つ品種がないものがあります。キクの白い花びらができるしくみを利用して、マリーゴールドにカロテノイドを分解する酵素の遺伝子を遺伝子組換えで導入すると、白いマリーゴールドができるかもしれません。

ほかの植物でも同じようなしくみで花びらの白い色ができるのかどうかは、まだわかっていません。キクのようにいったん作った色素を分解して白くなる花もあれば、色素を作らないために白い花もあるでしょう。植物によっていろいろな方法で花の色が作られているのではないかと考えています。

カロテノイドとは

図:カロテノイドとは

ルテイン
図:ルテイン
キクの黄色花弁にはルテインと呼ばれるカロテノイドがたんさん含まれています。

研究センター