届出伝染病

トキソプラズマ症(toxoplasmosis)

牛鹿馬めん羊山羊豚家きんその他家きんみつばちその他家畜
対象家畜:めん羊、山羊、豚、いのしし

1.原因

 

 本病の原因はトキソプラズマ・ゴンディ(Toxoplasma gondii)と呼ばれる原虫。

 

 

2.疫学

 

 トキソプラズマ・ゴンディは、ネコ科動物を終宿主とし、ヒト、豚を含むほ乳類から鳥類まで広い範囲の動物を中間宿主とする原虫である。感染ネコの糞便に排出されるオーシストが豚やヒトに経口感染すると、増殖期を経てやがて筋肉や脳内で休眠状態のシストとなる。シストを含む豚肉などを加熱せずに食べても感染する。わが国では豚が問題となるが、昭和50年代以降、豚における感染率は激減しており、近年は20〜40戸/年程度の摘発である。欧米ではめん羊、山羊での発生が報告されている。

 

 

3.臨床症状

 

 ネコは多くの場合無症状である。豚では発熱、咳、鼻汁、腹式呼吸(あえぎ)、皮膚の紫赤斑、起立不能を示す。また妊娠している場合は流産を起こすこともある。ヒトでは網膜炎を起こすことが多く、全身感染に至ることはまれである。ヒトおよび豚が妊娠中に初感染した場合は胎児(子)に垂直感染し、流産を起こす場合がある。めん羊は流産のみ、山羊は豚と同様の症状を示す。牛にも感染するが発病はまれである。

 

 

4.病理学的変化

 

 豚の急性感染例では全葉性水腫性肺炎が特徴的である。他に消化管粘膜の出血・壊死、リンパ節の腫大、肝臓など実質臓器の微細出血、胸水や腹水の増加がみられる。慢性に経過した場合、明らかな病変は認められない。

 

 

5.病原学的検査

 

 急性経過で死亡した個体の肺、腸粘膜、リンパ節の組織小片乳剤を直接鏡検し、あるいは割面スタンプのギムザ染色標本を鏡検して、増殖型虫体(タキゾイト)を検出する。また、脳小片の圧扁標本を鏡検し、シストを検出する。あるいは上記の臓器ならびに脳の乳剤をマウスの腹腔内に接種して原虫を分離する。

 

 

6.抗体検査

 

 ラテックス凝集反応が応用されている。他に色素試験、蛍光抗体間接法、血球凝集反応、補体結合反応、ELISAなどが用いられる。

 

 

7.予防・治療

 

 豚の飼養施設にネコを入れない。ネズミやゴキブリ、ハエなどが豚舎にオーシストを運び込む可能性もあるので、衛生対策を徹底する。オーシストは一般の消毒剤が無効なため、加熱消毒(煮沸、熱湯の散布)を行う。ヒトへの感染を防ぐためには、豚肉などの生食を避け、特に感染歴のない妊娠者はネコとの接触を避ける。豚の急性症治療にはサルファ剤を投与する。シストに有効な薬剤はない。

 

 

8.発生情報

 

 監視伝染病の発生状況(農林水産省)

 

 

9.参考情報

 

 獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)



編集:動物衛生研究部門

(令和3年12月 更新)

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