牛疫(rinderpest)
1.原因
Mononegavirales (目) Paramyxoviridae(科)Paramyxovirinae(亜科)Morbillivirus(属)Rinderpest virusが原因であり、本ウイルスは一本鎖のマイナスRNAウイルスで、大きさは約150 nm、エンベロープを有する。小反芻獣疫ウイルス(Peste-des-petits-ruminants virus)に近縁である。
2.疫学
歴史的にはヨーロッパで最も恐れられた牛などの反芻獣が罹患する伝染病である。18世紀北西ヨーロッパでは、本疾病によって約2億頭の牛が死亡したと言われる。国連食糧農業機関(FAO)によって推進された撲滅計画により、2001年のケニアでの発生を最後に自然界から根絶された。FAOと世界獣疫事務局(OIE)は2011年に本病の根絶を宣言し、天然痘に続けて人類が撲滅した2つめの感染症となっている。そのため牛疫ウイルスの所持は国際認証を受けた日本、米国、英国、フランス、中国、エチオピア(アフリカ連合)の研究機関に限られており、それ以外の国では廃棄が進められている。
感染牛の排泄物の飛沫などに直接接触することで伝播する。牛では品種によって感受性に差のあることが知られ、和牛は特に感受性が高い。
3.臨床症状
潜伏期は通常3〜5日(2〜9日)。41〜42°Cの高熱,食欲減退、沈鬱などの後、眼瞼腫脹、流涙や鼻汁は最初水様であるが後に膿様となり、口周囲の粘膜は充血し、さらに、口唇、口蓋、舌、鼻粘膜、膣粘膜等に広がり、潰瘍,糜爛へと続く。その後、背を弓なりにした姿勢をとり、血液や粘膜組織を含んだ激しい下痢を伴い、脱水症状で死亡する。症状を示した後6〜12日で死亡する例が多い。
4.病理学的変化
消化管粘膜に出血性の変化(充出血、糜爛、潰瘍)、肝臓の褐色化(黄疸)パイエル板の腫脹、出血など。組織学的にはリンパ組織に多核巨細胞(好酸性の細胞室内および核内封入体)。消化管上皮にも巨細胞が観察されることがある。
5.病原学的検査
ゲル内沈降法(ウサギ免疫血清)。RT-PCR(小反芻獣疫とも区別可能)、ウイルス分離(B95a細胞(Marmoset lymphoblastoid cell)、BK細胞、Vero細胞)、CF反応(ウサギ免疫血清)、蛍光抗体法など。
6.抗体検査
モノクローナル抗体を用いた競合ELISA(小反芻獣疫とも区別可能)、中和試験、CF反応、ゲル内沈降反応など。
7.予防・治療
2020年末現在、本病については世界的な清浄性が保たれているが、万一の再発に備えてアジアおよびアフリカ由来のワクチン株を用いた生ワクチンが製造、備蓄されている。日本では国際認証を受けた牛疫所持機関である農研機構動物衛生研究部門が家兎鶏胚馴化弱毒ウイルスである赤穂株を用いた生ワクチンを製造しており、国内および海外向けの緊急備蓄のワクチンとして保管する。
万一の再発にあっては、「牛疫に関する特定家畜伝染病防疫指針」に準じて速やかな摘発淘汰を実施し、感染の拡大状況などを勘案して適宜ワクチンを使用する。有効な治療法はない。
8.発生情報
該当なし(2.疫学を参照のこと)
監視伝染病の発生状況(農林水産省)
9.参考情報
獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)
編集:動物衛生研究部門
(令和3年12月 更新)