動衛研トップ > 疾病情報 > 家畜の監視伝染病 > 家畜伝染病 > 高病原性鳥インフルエンザ
家畜伝染病

高病原性鳥インフルエンザ(highly pathogenic avian influenza)

牛鹿馬めん羊山羊豚家きんその他家きんみつばちその他家畜
対象家畜:鶏、あひる、うずら、きじ、だちょう、ほろほろ鳥、七面鳥

1.原因

 

 家畜伝染病予防法において国際獣疫事務局(OIE)が作成した診断基準(*)により高病原性鳥インフルエンザウイルスと判定されたA型インフルエンザウイルスの感染による家禽(鶏、あひる、うずら、きじ、だちょう、ほろほろ鳥、七面鳥)の疾病」と規定される。A型インフルエンザウイルスはオルソミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)A型インフルエンザウイルス属(Influenzavirus A)に分類され、ゲノムは一本鎖(-)RNAで、8本の分節からなる。鳥インフルエンザウイルス表面のヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)の血清型の組み合わせにより、H1からH16、N1からN9亜型に細分されている。

 

 

2.疫学

 

 自然宿主はカモなどの野生水禽類である。ウイルスは感染した鳥類の鼻、口、眼、クロアカから排泄される。感染した鳥類との直接接触、またはウイルスに汚染された排泄物、飼料、粉塵、水、ハエ、野鳥、人、資材、車両等を介して伝播する。

 

 

3.臨床症状

 

 鶏では沈鬱、肉冠・肉垂・脚部のチアノーゼ、食欲消失、急激な産卵低下(停止)が代表的な臨床症状とされているが、これらの臨床症状を示さず急死することもある一方、あひるでは感染しても臨床症状を示すことなく生存する又は震え、起立不能、斜頚などの神経症状が見られて死亡することもある。

 

 

4.病理学的変化

 

 内臓と皮膚の浮腫、出血、壊死性病変が見られる場合があるが、全く肉眼的な変化を示さない例もある。頭部、顔面、頸部、脚における浮腫による腫脹や点状出血、肉冠・肉垂の壊死、出血、チアノーゼが見られることがある。病理組織学的には、脳、心臓、肺、リンパ組織など多臓器における壊死と炎症が見られる。

 

 

5.病原学的検査

 

 気管スワブおよびクロアカスワブ材料を発育鶏卵の尿膜腔内に接種し、ウイルス分離検査を行う。この際、ニューカッスル病の原因である鳥パラミクソウイルスとの鑑別が必要である。近年は迅速な診断技術として、同材料からウイルスに特異的な遺伝子を検出するPCRまたはリアルタイムPCR法を用いる。。血清学的診断法を用いて分離されたウイルスのHAの亜型は赤血球凝集反応抑制(HI)試験、NAの亜型はノイラミニダーゼ反応抑制(NI)試験により決定する。近年では、HA及びNA遺伝子配列を解読することにより、亜型を決定することもある。病原性は鶏の静脈内接種試験により決定する。市販の抗原検出キット(イムノクロマトグラフィー法)は、主にA型インフルエンザウイルスの共通抗原を検出するものであり、亜型の同定には上記の血清学的診断や亜型特異的な遺伝子検出が必要である。

 

 

6.抗体検査

 

 血清を材料に、ウイルスに特異的な抗体をエライザ法または寒天内ゲル内沈降反応により検出する。

 

 

7.予防・治療

 

 殺処分および移動・搬出制限によりまん延防止、早期撲滅を図る。

 

 

8.発生情報

 

 2004、2007、2010-2011年H5N1亜型、2014-2015年H5N8亜型、2016-2018年H5N6亜型、2020年-H5N8亜型高病原性鳥インフルエンザの発生が確認されている。

 監視伝染病の発生状況(農林水産省)

 

 

9.参考情報

 

 獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症4版(近代出版)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)、家禽疾病学第2版(鶏病研究会)

 高病原性鳥インフルエンザおよび低病原性鳥インフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫指針、農林水産省

 Diseases of Poultry、Y.M. Saif編、Iowa State Press

 平成29年度における高病原性鳥インフルエンザの発生に係る疫学報告書、高病原性鳥インフルエンザ疫学調査チーム、2018

 平成28年度における高病原性鳥インフルエンザの発生に係る疫学調査報告書、高病原性鳥インフルエンザ疫学調査チーム、2017

 平成26年4月に発生した高病原性鳥インフルエンザに係る疫学調査報告書、高病原性鳥インフルエンザ疫学調査チーム、2014

 2007年に発生した高病原性鳥インフルエンザの感染経路について、高病原性鳥インフルエンザ感染経路究明チーム、2007

 高病原性鳥インフルエンザの感染経路について、高病原性鳥インフルエンザ感染経路究明チーム、2004

 

 

*OIEによる高病原性インフルエンザウイルスの定義(抄訳)

 鶏における病原性を決定するために、以下の2つの方法のうち1つが用いられる。高病原性鳥インフルエンザウイルスは:
 感染性の尿膜腔液を10倍希釈したもの0.2mlを、4〜8週齢の鶏8羽に静脈内接種したとき、10日以内に6〜8羽を死に至らしめるインフルエンザウイルス。

 静脈内病原性指数Intravenous Pathogenicity Index (IVPI)が1.2より大きいインフルエンザウイルス。IVPIの算出法は以下の通り。
 赤血球凝集価が16倍の感染性の尿膜腔液を、無菌の等張生理食塩水で10倍希釈する。
 希釈した尿漿膜液0.1mlを、4〜8週齢のウイルス特異的抗体をもたない鶏10羽に静脈内接種する。可能ならばSPF鶏を使用する。
 鶏を10日間24時間間隔で観察する。観察時に0:正常、1:病気、2:重度の病気、3:死亡、のように点数を付ける("病気"または"重度の病気"は、臨床症状から主観的に判別する。通常、以下(〈 〉内)のうち"病気"の鶏は1つ、"重度の病気"の鶏は2つ以上の症状を示す〈呼吸困難、沈鬱、下痢、皮膚や肉垂のチアノーゼ、顔面や頭部の水腫、神経症状〉。死亡個体は、死亡後も3点を付けねばならない)。
 IVPIは、10日間の観察における1羽・1観察あたりの平均点である。3.00は24時間以内にすべての鳥が死亡したことを表し、0.00は10日間の観察ですべての鳥が臨床症状を全く示さないことを意味する。
 鶏に対し低病原性のH5とH7ウイルスについては、ヘマグルチニンの結合ペプチドのアミノ酸配列が決定されねばならない。もし配列が他の高病原性鳥インフルエンザウイルスと類似していたら、そのウイルス株は高病原性であると考えられる。

 

肉冠の出血・壊死 顔面の浮腫性腫脹 脚部皮下の出血 甚急性死亡例、明らかな肉眼病変なし
写真1:肉冠の出血・壊死 写真2:顔面の浮腫性腫脹 写真3:脚部皮下の出血 写真4:甚急性死亡例、明らかな肉眼病変なし


編集:動物衛生研究部門

(令和3年12月 更新)

ページの先頭へ↑