家畜伝染病

伝達性海綿状脳症(transmissible spongiform encephalopathy; TSE)

牛鹿馬めん羊山羊豚家きんその他家きんみつばちその他家畜
対象家畜:牛、水牛、鹿、めん羊、山羊

1.原因

 

 プリオン(感染性蛋白質)。宿主の正常プリオン蛋白質(PrPC)の構造異性体である異常プリオン蛋白質(PrPSc)がその主要構成成分となる。監視伝染病としては、牛海綿状脳症(BSE)、めん羊・山羊のスクレイピー、鹿慢性消耗病(CWD)が含まれる。ヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)も類似の疾病である。プリオン病とも呼ばれる。

 

 

2.疫学

 

 BSEは、1986年に英国で報告以来、現在までに26カ国で19万頭以上の感染牛が確認されている。BSEプリオンに汚染した動物性蛋白質飼料(肉骨粉)の給餌が蔓延の原因となった。ヒトの変異型CJDはBSEの感染に起因していることから、本病は人獣共通感染症にも含まれる。動物性蛋白質飼料の使用規制により、現在ではBSEの発生は年数件まで減少した。一方、その数は少ないものの老齢牛に非定型BSEが報告されており、孤発性に発生することが示唆されている。めん羊・山羊のスクレイピーは250年以上前から知られており、欧州・北米のほか、我が国でも散発的な発生が確認されている。CWDは北米での発生が中心であったが、近年北欧で発生が報告された。スクレイピーの伝播経路は不明であるが、宿主のPrPC遺伝子多型も感受性に影響する。非定型スクレイピーの発生・増加が報告されている。

 

 

3.症状

 

 BSEでは、中枢神経障害に起因した、1)異常行動、2)過敏症(知覚、触覚、視覚)、3)不安、4)歩様異常、5)後躯麻痺、6)泌乳量の低下、7)一般健康状態の悪化などが認められる。スクレイピーでは掻痒症、脱毛を認める例もある。
 (https://www.naro.go.jp/laboratory/niah/niah_atlas/bovine/other/022143.html

 

 

4.病理学的変化

 

 肉眼的に特徴的な所見は認められないが、組織学的には中枢神経系に空胞変性(海綿状変化)、アストロサイトの活性化が観察され、免疫組織学的検査(IHC)では、PrPScの蓄積が認められる。スクレイピーではリンパ組織内のろ胞樹状細胞(FDC)にもPrPScも蓄積するが、リンパ組織には病理学的な変化は認められない。
 (https://www.naro.go.jp/laboratory/niah/niah_atlas/bovine/other/022143.html

 

 

5.病原学的検査

 

 BSE感染牛では中枢神経系におけるPrPScの有無が検査される。一次検査として固相酵素免疫測定法(ELISA)(市販の迅速診断キット)が活用されている。確定検査にはウエスタンブロット法(図1)およびIHCが用いられている。生化学的検査法では、蛋白質分解酵素処理抵抗性のプリオン蛋白質をPrPScとして検出する。スクレイピー、CWDではリンパ組織に蓄積するPrPScの検出による診断も可能である。

ウエスタンブロット法によるPrP<sup>Sc</sup>の検出(原図:動物衛生研究所・横山 隆氏)
 1, 2列:スクレイピーマウス陽性対照
 3, 4列:BSE牛陽性対照
 5, 6, 8, 9列:被検体(エライザ用乳剤)
 7, 10列:被検体
 11列:正常牛陰性検体
図1.ウエスタンブロット法によるPrPScの検出

 

6.抗体検査

 

 病原体は宿主の自己蛋白質であるPrPCの構造異性体から構成されている。感染に伴って誘起される免疫反応は無く、抗体検査によるTSEの診断はできない。

 

 

7.予防・治療

 

 現在のところ予防法、治療法はない。

 

 

8.発生情報

 

 監視伝染病の発生状況(農林水産省)

 

 

 

9.参考情報

 

 獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)



編集:動物衛生研究部門

(令和3年12月 更新)

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