野兎病(tularemia)
1.原因
野兎病の原因菌である野兎病菌(Francisella tularensis)は、グラム陰性の小桿菌で、多形性を示す好気性の細胞内寄生菌である。土壌や水などでは数週間生存可能であるが、熱処理(55℃10分程度)により容易に死滅する。本菌には4亜種(F. tularensis subsp. tularensis, F. tularensis subsp. holarctia, F. tularensis subsp. mediasiatica, およびF. tularensis subsp. novicida)が存在するが、亜種間で病原性は異なり、subsp. tularensisおよびsubsp. holarctiaがほとんどの野兎病事例の起因亜種である。
2.疫学
本病は野生の齧歯類やウサギの重要な伝染病として北緯30度以北に分布する人獣共通感染症である。多種類の動物が感染し、菌を含む尿や死亡感染個体により環境が汚染される。本菌に汚染された環境への侵入、汚染された水や餌の摂取による感染のほか、保菌動物、ダニ、アブなどを介した感染もある。日本では野ウサギから野兎病菌が分離されている。
3.臨床症状
本菌は亜種により病原性が異なる。一般的に家畜に対して重篤な症状をもたらすことはまれであるが、F. tularensis subsp. tularensisによる高い致死率を伴っためん羊の集団発生事例もある。野生の齧歯類やウサギは感受性が高く、敗血症に伴う諸症状を呈し死亡する。下痢の症状が見られることもある
4.病理学的変化
リンパ節の腫大、出血、壊死、膿瘍、肝臓や脾臓に結節、壊死巣、肺の水腫、充血などが見られることもある。
5.病原学的検査
心血、肝臓、脾臓などを検査材料とし、野兎病菌用分離培地を用いて直接分離するか、検査材料を接種したマウス、モルモットなどから分離培養する。免疫組織化学的方法による病変部における本菌証明も行われている。同定にはPCR法も応用されている。
6.抗体検査
試験管内凝集反応、微量凝集反応、間接血球凝集反応、ELISAなどが開発されており、疫学調査を目的として使用される。本菌に対して高感受性動物は抗体上昇前に死亡するため、血清反応による抗体検査は有効ではない。
7.予防・治療
本菌に汚染されている地域や感染動物が生息する地域では動物を飼わないことが大切である。野兎病の治療には抗生物質が有効である。
8.発生情報
9.参考情報
獣医感染症カラーアトラス第2版(文永堂)、動物の感染症第4版(近代出版)、家畜伝染病ハンドブック(朝倉書店)
編集:動物衛生研究部門
(令和3年12月 更新)